ウェルシュ・コーギー・ペンブローク

ウェルシュ・コーギー・ペンブロークとは

ウェルシュ・コーギー・ペンブロークは、イギリスのウェールズ地方を起源とする犬種です。古くから牧畜犬として活躍しており、特に牛を誘導する能力に優れていました。同じウェールズ原産のウェルシュ・コーギー・カーディガンという非常によく似た犬種がいますが、これらは1930年代にそれぞれ独立した犬種としてイギリスやアメリカで登録されました。

特に、この犬種が世界的に知られるようになったのは、イギリスのエリザベス女王が長年にわたり深く愛育した「ロイヤル・コーギー」の存在によるものです。女王にとってコーギーは非常に身近な存在であり、しばしば女王のシンボルとしても捉えられていました。イギリス王室とペンブローク種との関わりは、1933年に即位前のジョージ6世（当時ヨーク公）が初めて迎え入れたことに始まります。その後、1944年に当時18歳のエリザベス女王に贈られた「スーザン」という名のコーギーの子孫が、現在に至る多くのロイヤル・コーギーの血統となっています。

特徴

外見

ウェルシュ・コーギー・ペンブロークの体型は非常に特徴的です。長い胴体に比べて脚が短く、骨格はがっしりとしています。体重は概ね10kgから15kgの範囲ですが、本来は筋肉質でスタミナがあります。耳はピンと立った三角形で、表情豊かです。被毛は寒さに強いダブルコート構造で、保温性に優れています。毛色はレッド、フォーン、セーブル、ブラックタン、そしてトライカラーなどが一般的です。

尻尾

この犬種の大きな特徴として、多くの個体で尻尾が非常に短い、あるいはほとんどないことが挙げられます。これは犬種本来の姿ではなく、歴史的に行われてきた「断尾」という人為的な処置によるものです。ウェールズで牧畜犬として牛を追う際、牛に尻尾を踏まれて怪我をするのを防ぐために、ペンブルックシャー州でこの習慣が根付いたとされています。断尾は生後間もない子犬に対して行われるのが一般的でした。かつては無痛に近いと考えられていましたが、近年の研究では子犬にも痛覚があることが指摘され、動物愛護の観点から見直しが進んでいます。ヨーロッパなどの一部の国では断尾を禁止する法律が施行されていますが、日本ではまだ多くのコーギーが断尾されています。これは、「コーギー＝尻尾が短い」というイメージが根強いことが一因と考えられます。本来、ペンブローク種はカーディガン種と同様に、長くふさふさしたキツネのような尻尾を持っています。

性格

ペンブロークは非常に活発で、遊ぶことや運動が大好きです。賢く、物覚えも良いため、トレーニングを比較的スムーズに行うことができます。また、好奇心旺盛で新しいことにも積極的に取り組みます。しかし、もともと牛や羊のかかとに噛み付いて群れを誘導する「ヒーラー」として改良された歴史があるため、興奮すると飼い主の足元に軽く噛み付くような行動を見せることがあります。基本的には社交的で飼い主には従順ですが、警戒心が強く吠えやすい側面もあります。中には神経質な個体もおり、咬傷事故につながる可能性もゼロではありません。

カーディガン種との違い

ウェルシュ・コーギー・ペンブロークとカーディガン種は非常によく似ていますが、いくつかの違いがあります。最も分かりやすいのは尻尾で、ペンブロークは多くの個体で断尾されていますが、カーディガンは本来長い尻尾を持ちます。また、性格面ではペンブロークの方が一般的に興奮しやすく、カーディガンよりも落ち着きがない傾向があります。歴史的にはカーディガン種の方が古いとされており、ペンブローク種の正確な起源は不明ですが、ベルギー北部のフラマン人がウェールズに持ち込んだ犬が祖先という説もあります。

飼育上の注意と健康

ウェルシュ・コーギー・ペンブロークを飼育する際には、いくつかの注意点があります。まず、食欲が非常に旺盛で太りやすいため、適切な食事管理と毎日の十分な運動が不可欠です。肥満は、長い胴体と短い脚を持つこの犬種にとって、脊椎、特に腰椎に大きな負担をかけます。カーディガン種やダックスフンドと同様に、椎間板ヘルニアなどのリスクが高まるため、体重管理は非常に重要です。また、階段の上り下りや滑りやすい床での運動は腰に負担をかける可能性があるため注意が必要です。

二重構造の被毛は保温性に優れる反面、日本の高温多湿な夏には比較的弱く、熱中症に注意が必要です。また、皮膚トラブルを起こしやすい個体もいます。被毛は抜け毛が非常に多いため、室内で飼育する場合は頻繁なブラッシングと掃除が必要になります。

健康面では、特に注意したいのが「変性性脊髄症（DM）」です。これは進行性の神経疾患で、10歳前後から発症することがあります。残念ながら原因不明で治療法は確立されておらず、発症すると徐々に運動機能を失い、発症から数年で死に至ることが多い病気です。スウェーデンでの報告では、近親繁殖を避けることで発生率を低く抑えられる可能性が示唆されています。

現状

イギリスでは、ウェルシュ・コーギー・ペンブロークの登録数が近年減少傾向にあり、絶滅危惧種に指定される可能性が指摘されています。2013年の登録数は241匹、2016年でも393匹と低い水準にとどまっています。この減少の一因として、前述の断尾禁止法により、伝統的なコーギーの外見が変わってしまうことを懸念した一部のブリーダーが繁殖を控えるようになったという説があります。

総じて、ウェルシュ・コーギー・ペンブロークは明るく活発で非常に魅力的な犬種ですが、特有の体型や健康問題、豊富な運動量と抜け毛など、飼育にあたっては飼い主の適切な管理と深い理解が求められます。

もう一度検索