ウォタルー街

第二次世界大戦後のロンドンを舞台にした人間ドラマ『ウォタルー街』

1945年公開のイギリス映画『ウォタルー街』（原題：Waterloo Road）は、戦後の南ロンドン、ウォータールー地区を舞台に、複雑に絡み合う人間関係と社会情勢をリアルに描いた作品です。ジョン・ミルズ、スチュワート・グレンジャー、アラステア・シムといった実力派俳優が出演し、シドニー・ギリアット監督がメガホンを取りました。

敵前逃亡兵士と彼の周りの人々

物語の中心となるのは、敵前逃亡によって故郷のロンドンに戻ってきた兵士、ジム・コルター（ジョン・ミルズ）。彼は、徴兵を逃れているテッド・パーヴィス（スチュワート・グレンジャー）に言い寄られる妻を救うため奔走します。この映画は、単なる戦争映画ではなく、戦後の混乱期における人々の葛藤や愛憎、そして倫理的なジレンマを描いた社会派ドラマとして評価されています。登場人物たちの複雑な人間関係、それぞれの思惑が交錯する様子は、観る者の心を揺さぶる力を持っています。

短期間での撮影と制作トラブル

『ウォタルー街』の製作は、決して順風満帆ではありませんでした。当初は『Blue for Waterloo』というタイトルで企画されていた本作は、わずか10日間という短い期間で撮影されたとのこと。スチュワート・グレンジャーは、この作品への出演と同時に、別の映画『愛の物語』の撮影も並行して行っていたそうです。彼は、特にジョン・ミルズとの喧嘩シーンを気に入っていたと語っており、その熱演ぶりが伺えます。

さらに、映画の完成直前には、フィルムが押収されるという危機に直面したと言われています。屋外撮影が残る段階で制作が中断し、プロデューサーが去るという事態が発生。しかし、オデオン系列の映画館を運営していたアール・セント・ジョンの尽力により、何とか撮影を再開し、完成にこぎ着けました。制作過程の困難を乗り越え完成したという事実自体が、この映画の大きな魅力となっています。

ギリアット監督と脚本、そしてアラステア・シムの役割

監督のシドニー・ギリアットは、この作品を彼の「非公式3部作」の最終章と位置づけています。これは、『Millions Like Us』（1943年）、『Two Thousand Women』（1944年）に続く作品です。彼は、アラステア・シムの役柄にコメンテーター的な役割を与えたのは、オリジナル脚本に基づきながらも自身のアイデアだったと語っています。しかし一方で、この演出は「少々ゴタゴタしてしまった」とも評しており、その複雑な製作過程がうかがえます。

興行成績と評価

『Kinematograph Weekly』誌によると、『ウォタルー街』は1945年のイギリスで高い興行成績を収めたようです。現在でも、IMDb、BFI Screenonline、Variety、Time Out、The New York Timesなど、多くのメディアでレビューや紹介記事が公開されており、その評価の高さがわかります。時代を超えて高く評価されていることは、この映画が普遍的なテーマを扱っていることを示しています。

結論

『ウォタルー街』は、戦後のロンドンを舞台に、人々の葛藤や愛憎をリアルに描いた傑作です。短期間での撮影、制作トラブル、個性豊かなキャスト陣、そして複雑な人間模様など、見どころが満載です。歴史的背景、社会情勢、そして人間ドラマを深く理解したい方にとって、必見の作品と言えるでしょう。また、映画製作の裏側にある苦労や努力を知る上でも貴重な資料となるでしょう。この作品は、単なる娯楽作品を超えて、社会への鋭い洞察と深い人間ドラマを提供してくれます。

もう一度検索