ウォー・トゥ・エンド・オール・ウォーズ

2000年に発表された『ウォー・トゥ・エンド・オール・ウォーズ』（War to End All Wars）は、ギターヒーローとして世界的に名を馳せるイングヴェイ・マルムスティーンにとって、通算13枚目のスタジオ作品にあたります。本作は「イングヴェイ・J・マルムスティーンズ・ライジング・フォース」名義でリリースされました。

アルバムのタイトルである『ウォー・トゥ・エンド・オール・ウォーズ』は、「全ての戦争を終わらせる戦い」、すなわち第一次世界大戦を指す言葉として歴史的に知られています。しかしながら、このアルバムで展開される楽曲の世界観は、歴史的な出来事を描くものではなく、イングヴェイ自身の内面や個人的なテーマを深く掘り下げた内容となっています。このタイトルと内容の対比も、本作の特徴の一つと言えるでしょう。

日本盤のジャケットに巻かれた帯には、「王者イングヴェイ、新世紀へのプレリュード!! ハード・ロック・シーンに君臨する孤高の天才。究極の"バロック＆ロール"アルバム、ここに完成!!」といった、当時のイングヴェイへの期待や、アルバムのサウンド志向を煽る力強いコピーが添えられていました。これは、時代が変わってもなお、彼の音楽が持つ独特の魅力と存在感を強調するものであり、ファンにとっては新たな時代の幕開けを予感させるものでした。

このアルバムの制作には、イングヴェイ自身がギター演奏だけでなく、ベース、シタール、そして一部のヴォーカルも担当しており、その多才ぶりを発揮しています。メインのヴォーカルはマーク・ボールズが務めました。キーボードはマッツ・オラウソン、ドラムはジョン・マカルーソという強力なメンバーが脇を固め、アルバム全体のサウンドに貢献しています。また、アルバムのオリジナル・カバー・アートワークは、ファンタジー・アートの巨匠として名高いフランク・フラゼッタが手掛けており、その壮大なイラストもアルバムの魅力を一層引き立てています。

アルバム発表後のツアーにおいては、予期せぬ出来事も発生しました。ツアーの途中で、ヴォーカリストのマーク・ボールズがバンドを離脱するという事態に見舞われます。この空席を埋めるため、一時的にヨルン・ランデが代役としてヴォーカルを担当しましたが、ツアーの終盤には再びマーク・ボールズが復帰するという経緯を辿りました。こうしたメンバーの変動は、ツアーにおける一つのドラマティックなエピソードとして記憶されています。

収録曲についても特筆すべき点があります。例えば、「Molto Arpeggiosa」という楽曲は、かつてイングヴェイが教則ビデオなどで披露した速弾きフレーズ、「Arpeggios from Hell」を元に発展させたものと言われています。このように、過去にファンに提示してきたアイディアを、アルバム楽曲として昇華させるアプローチも見られます。

一方で、イングヴェイ自身は、本作のサウンドプロダクションの仕上がりに完全に満足していたわけではないようです。2013年に出版された自身の自伝の中で、彼は『ウォー・トゥ・エンド・オール・ウォーズ』について言及し、「近い将来、あのアルバムをリミックスするかもしれない」と述べています。これは、リリースから十数年を経てもなお、彼の中に改善の余地があるという認識があったことを示唆しており、サウンドへの強いこだわりがうかがえるエピソードです。

『ウォー・トゥ・エンド・オール・ウォーズ』は、21世紀の幕開けにイングヴェイ・マルムスティーンが世に送り出した作品として、彼のキャリアにおける重要な位置を占めています。タイトルに込められた意味合いの深さ、豪華な制作陣、ツアー中のエピソード、そしてイングヴェイ自身のサウンドへの評価など、様々な側面から語られることの多いアルバムです。孤高のギタリストが描き出した、ネオクラシカル様式とヘヴィメタルの融合が織りなす音の世界は、今なお多くのファンに聴き継がれています。

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