ウチワヒゲムシ属

ウチワヒゲムシ属 (Phacus)

ウチワヒゲムシ属（学名：Phacus Dujardin）は、ミドリムシの仲間に分類される単細胞の鞭毛虫です。学名カナ読みでは「ファクス」あるいは「ファカス」とも呼ばれます。その名称は、細胞体が平たく団扇（うちわ）に似た形状をしていることに由来しています。

この属に属する微生物は、ミドリムシと同様に細胞内に葉緑体を持つため、光合成によって自ら栄養を作り出すことができます。細胞の前端からは一本の長い鞭毛が伸びており、これを使って水中を移動します。

細胞体は木の葉のような形をしており、全体にわたって非常に扁平です。前端は丸みを帯びていますが、後端は細く尖った棘のように突き出ているのが特徴的です。ウチワヒゲムシ属の細胞壁は比較的しっかりしており、ミドリムシのように自在に形を変えることはありません。細胞内の葉緑体は小さな円盤状をしています。また、多くの種では細胞の表面に多数の縦方向の筋が見られます。種類によっては、細胞が前後軸に沿ってややよじれたような形をしています。水中を泳ぐ際には、鞭毛の動きに合わせて細胞体を回転させながら進みます。細胞の前端付近には、光を感じ取るための赤い眼点（がんてん）を持っています。

ウチワヒゲムシ属は、主に淡水環境に生息しています。特に、水が長期間にわたって停滞している池や沼などで多く見られます。これはミドリムシの生育環境と共通しています。この属の代表的な種としては、ウチワヒゲムシ（P. pleuronectes）が挙げられます。この種は水草が多く茂る場所で広く観察されますが、その数はさほど多くありません。一方、エナガウチワヒゲムシ（P. longicaudus）は、池沼のプランクトンとして本属の中で最も一般的に見られる種です。

ウチワヒゲムシ属は種類が多く、一つの場所で複数の種が同時に確認されることも珍しくありません。日本の淡水に生息する種について、水野寿彦氏の1964年の著書には13種が記載されています。

形態的にウチワヒゲムシ属とよく似ているものに、ニセウチワヒゲムシ属（Lepocinclis）があります。ニセウチワヒゲムシ属も細胞が変形せず、幅広い円形から楕円形で、後端が尖る点では共通していますが、ウチワヒゲムシ属のように扁平にはなっていません。また、ニセウチワヒゲムシ属の細胞内には、貯蔵物質であるパラミロン体が環状になって2個存在するという明確な特徴があります。これらの属は同じ科に分類されており、分子系統解析による情報からも、ウチワヒゲムシ属とニセウチワヒゲムシ属はまとめて一つの単系統群を形成していることが確認されています。

もう一度検索