ウーヴェ・ヨーンゾン

ウーヴェ・ヨーンゾン（Uwe Johnson, 1934年7月20日 - 1984年2月23日）は、20世紀後半のドイツを代表する小説家の一人です。彼の作品は、社会主義体制下での人間の疎外感、そして資本主義社会における自由と正義への懐疑という、複雑なテーマを深く掘り下げています。

生涯

ヨーンゾンは1934年、現在のポーランド領であるカミーンで、畜産監督官の息子として誕生しました。ナチズム教育を受けたものの、彼の人生に大きな影響を与えたのは、むしろその後の東ドイツにおける社会主義体制でした。1952年、ロストック大学でドイツ語学と英語学を学び始め、その後ライプツィヒ大学に編入。1956年には卒業論文を提出し卒業しますが、社会主義リアリズム至上主義の東ドイツでは、表現主義的なテーマを扱った論文が「市民的」とされ、定職を得ることができませんでした。そのため、翻訳や編集の仕事で生計を立てざるを得ませんでした。この時期には、初期の習作である『イングリット・バーベンダーエルデ 卒業試験1953年』の出版を試みますが、いずれも拒否され、発表は死後まで待つことになります。

しかし、西ドイツの出版社であるズーアカンプ社はヨーンゾンの才能を高く評価し、執筆活動を励ましました。そして1959年、ズーアカンプ社から『ヤーコプについての推測』が出版され、フランクフルト書籍見本市で好評を博します。これを機に、ヨーンゾンは東ドイツでの執筆活動の困難さを感じ、同年西ベルリンへ転居し、本格的に作家活動を始めることになります。

1960年、フォンターネ賞を受賞し、翌年には『三冊目のアヒム伝』を発表。その後、1962年にローマに滞在し、結婚も経験します。1964年には『カルシュとその他の散文』を発表、1965年にはベルリンの分断をテーマにした『二つの風景』を発表するなど、精力的に執筆活動を展開します。1966年にはアメリカに渡り、ニューヨークで教科書編集顧問の職に就きます。

1968年からは、彼のライフワークとなる『記念の日々 ゲジーネ・クレスパールの生活から』の執筆を開始。同年、西ベルリンに帰還し、この作品は1970年から1983年にかけて全4巻が刊行されました。1971年には、ドイツ語圏で最も権威のある文学賞であるゲオルク・ビューヒナー賞を受賞。1974年には、テムズ河口の町、シェアネスに転居します。

しかし、この頃からヨーンゾンの人生は暗転します。妻の告白と、それによって生じた妻に対するスパイ疑惑から、彼は精神的に不安定になり、スランプに陥ってしまいます。1978年には妻と離婚。1979年にはフランクフルト大学で詩学を講義し、翌年に講義録『付随する問題』を出版しています。また、同年にはトーマス・マン賞を受賞しています。

1981年には、長年の友人であったマックス・フリッシュの70歳の誕生日を記念した短編『遭難者のスケッチ』を発表。1984年、シェアネスの自宅で心不全のため亡くなりました。

作品の特徴

ヨーンゾンの作品には、常に「居場所を失った人間の孤独と疎外感」が漂っています。これは、東西ベルリン、ニューヨーク、そしてシェアネスと、安住の地を求めて転居を繰り返した彼の人生を反映していると言えるでしょう。ヨーンゾンは、イデオロギーに起因する個人的な問題を克服しようとするのではなく、その問題を冷静に見つめ、そのままの姿で描くことに重点を置きました。

彼の作品の難解さを象徴するエピソードとして、ある評論家がヨーンゾンの作品について「彼は壁の向こう側にいるのでもこちら側にいるのでもない。壁の上にいるのだ」と評したことに対し、ヨーンゾンは「壁の上に立つことなど、現代において文字通り不可能なことだ。なぜならその人は壁の上に横たわっているはずだからだ。射殺されたのだから」と皮肉交じりに論評したことが挙げられます。これは、イデオロギー対立の狭間で生きる人間の複雑な境遇と、それを単純化しようとする言説への強い批判を示しています。

ヨーンゾンの作品は、その複雑さ、そして鋭い視点から、現代においても多くの読者に深い思索を促し続けています。

もう一度検索