エイビーロード

AB-ROAD（エイビーロード）

株式会社リクルートがかつて運営していた、海外旅行に関する情報検索ウェブサイトおよびモバイルアプリケーションである。多くの旅行会社のツアー情報を横断的に比較検討できる仕組みを提供し、海外旅行をより身近な存在とする上で重要な役割を果たしたが、2021年3月31日にそのサービスを終了した。

概要

エイビーロードのウェブサイトとアプリでは、海外旅行を計画する利用者に向けて、パッケージツアー（フリープランを含む）、航空券、そしてホテルの検索・比較機能を提供していた。特にパッケージツアーと海外航空券の項目では、国内の主要なものを含む150社を超える多数の旅行会社が提供する様々な旅行商品を一覧表示し、条件に合わせて絞り込みや比較を行うことが可能だった。海外ホテルについては、同じくリクルートグループが運営する宿泊予約サイト「じゃらんnet」の持つ幅広いラインナップの中から、希望に沿った宿泊施設を探すことができた。

旅行商品の予約方法に関しては、パッケージツアーと海外航空券の情報提供に特化しており、予約自体はエイビーロード上で情報を得た利用者が、それぞれの旅行会社に直接問い合わせて行うという形式だった。一方、海外ホテルの予約に関しては、エイビーロードの検索結果からじゃらんnetのサイトへ遷移し、そちらのシステム内で手続きを完了させる流れとなっていた。

沿革

エイビーロードの歴史は、元々は1984年に創刊された月刊の海外旅行情報誌として始まった。「abroad」（海外へ）という英単語を語源とするその誌名は、まさに読者を海外へと誘う羅針盤たらんとして名付けられたものだろう。創刊当初は海外だけでなく国内旅行の情報も取り扱っていたが、後に国内旅行情報に特化した『じゃらん』が創刊・独立し、エイビーロードは純粋な海外旅行情報誌へと舵を切った。

雑誌版エイビーロードが果たした功績は大きい。それまで海外旅行の検討といえば、旅行会社のカウンターでパンフレットを何冊も受け取り、自宅でそれらを付き合わせながら比較するというのが一般的だった。しかし、エイビーロードは複数の旅行会社が企画した多様なツアー情報を一冊の雑誌に集約。読者は自宅にいながらにして、まるで複数の旅行会社の店頭を回るかのように、手軽に様々なツアーを比較検討できる環境を得たのである。この「比較検討の容易さ」が、海外旅行への心理的・物理的なハードルを下げ、多くの人々にとって海外旅行をより身近な選択肢としたのである。

エイビーロードの普及は、提供されるツアーの内容にも変化をもたらした。創刊されて間もない昭和後期には、ヨーロッパなど遠隔地へのパッケージツアーは10日前後の周遊型が中心で、中には3週間もの長期滞在型ツアーも存在していた。しかし、エイビーロードを通じて様々な旅行会社の多岐にわたるツアー情報が広く知られるようになると、パリ5日間やロンドン5日間といった、より短期間で手軽に参加できるツアーが増加し、人気を集めるようになった。その結果、かつては存在した3週間を超えるような長期ツアーは、次第に市場で見かけることがほとんどなくなった。

その知名度向上には、積極的なプロモーション活動も寄与した。1986年頃にはテレビ東京系の経済情報番組内でテレビCMが放映されるなど、1990年前後にかけては多彩なCM戦略が展開された。特に、当時のヒット曲であった「マイムマイム」や「帰って来たヨッパライ」といった既存の楽曲を替え歌としてCMソングに採用した広告は、多くの人々の記憶に残るものとなった。また、1994年から1995年にかけては、西日本地域向けに発行されていた情報誌『AB-ROAD WEST』のテレビCMが、関西地方など一部地域で限定的に放送されたことがある。このCMは、海外の旅先で遭遇しうる様々なシチュエーションに、ウクレレを抱えた外国人男性3人組が歌いながらコミカルに乱入してくるという内容で、視聴者に強い印象を与えた。

エイビーロードの登場によって、海外旅行商品の価格設定サイクルにも変化が生じた。かつては6ヶ月単位で価格が設定されることが多かったが、月刊誌という媒体に合わせて月単位での価格変更が一般的となったのである。しかし、1990年代後半に入るとインターネットが急速に普及し始め、価格設定のサイクルはさらに短縮されていく。オンライン上では、旅行会社はほぼ瞬時に情報を更新することが可能となり、毎日価格設定を変更することも技術的に容易となった。特に、2001年のアメリカ同時多発テロ事件が発生して以降は、旅行業界全体の価格競争が一層激化し、航空運賃やツアー価格の頻繁な変動に対応するため、毎日の価格設定変更が業界の常識となっていった。

このような環境の変化は、月刊誌であるエイビーロードに大きな課題を突きつけた。価格競争の激化と価格変動の日常化は、雑誌媒体で提供できる価格情報の「鮮度」という点で限界を生じさせたのである。同時に、海外旅行に関する情報収集の手段が、紙媒体からインターネットへと急速にシフトしていくなど、ユーザーの利用行動にも明らかな変化が見られた。こうした時代の流れに対応するため、リクルートは大きな転換を決断する。2006年9月発売号をもって長年親しまれた雑誌版『エイビーロード』を休刊。1997年から並行して運営していたウェブサイト『エイビーロードネット』の名称を『エイビーロード』へと改め、情報提供のプラットフォームを完全にインターネットへ一本化する形となったのである。

雑誌からウェブサイトへとその姿を変えながら、海外旅行の情報提供サイトとして一定の存在感を保ち続けたエイビーロードであったが、時代の変化や利用ニーズの多様化の中で、その役割を終える時が来た。2021年3月31日をもって、エイビーロードの全てのサービスは完全に終了。およそ37年にわたるその歴史に幕を閉じた。

エイビーロードは、情報媒体の進化に対応しながら、多くの日本人にとって海外旅行をより身近な存在とする上で、確かに重要な足跡を残した。その「複数の旅行商品を比較する」というコンセプトは、その後のオンライン旅行情報サイトや旅行予約サービスの発展にも少なからず影響を与えたと言えるだろう。

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