エウラリウス (対立教皇)

エウラリウスは、5世紀初頭のローマにおいて、波乱に満ちた短い期間、教皇の座に就いた人物です。彼の生涯は、教会内部の権力闘争と、皇帝の政治的思惑が複雑に絡み合ったものでした。確かな生年は不明ですが、423年に没したと伝えられています。

エウラリウスは、教皇ゾシムスの治世下では助祭長という要職にありました。ゾシムスが418年12月26日に死去すると、教会内の有力者たちの間で後継者選びをめぐる争いが勃発しました。その結果、教会内の保守派、いわゆる長老派と呼ばれる勢力によって、エウラリウスが対立教皇として擁立されたのです。これは、教会内部に複数の勢力が存在し、それぞれが独自の権益を守ろうとしていたことを示しています。

12月27日に対立教皇として即位し、29日にはラテラノ大聖堂で正式に聖別されました。当初、西ローマ帝国皇帝ホノリウスはエウラリウスを正統な教皇として承認しました。この皇帝の支持は、エウラリウスの権威を高める上で大きな意味を持っていました。しかし、この皇帝の支持は長くは続きませんでした。政治情勢の変化や、教会内部の反対勢力の働きかけなど、様々な要因が絡み合った結果、皇帝の支持は撤回され、エウラリウスはローマから追放されることとなりました。

追放されたエウラリウスは、ローマ近郊のアティウム（現在のアンツィオ）に逃亡し、そこで身を潜めました。この逃亡生活は、彼にとって苦難の時代であったことは想像に難くありません。権力闘争の敗北と、皇帝の支持を失ったことによる絶望、そして逃亡生活の不安定さなど、様々な精神的苦痛を味わったことでしょう。

その後、422年9月4日に正統教皇ボニファティウス1世が死去しました。この時、教会内部では次期教皇の選出が急務となりました。驚くべきことに、この混乱の最中、エウラリウスは次期教皇の有力候補として推挙されたのです。しかし、当時すでに高齢で健康を害していたエウラリウスは、この栄えある地位を辞退しました。長年の苦難と、衰えた体力は、教皇としての職務を全うするだけの能力がないと判断させたのかもしれません。

そして423年、エウラリウスは生涯を終えました。彼の短い教皇在位期間と、その後の人生は、5世紀初頭のローマにおける教会政治の複雑さと、権力闘争の激しさ、そして個人の運命が時代の流れに翻弄される様子を私たちに示すものです。彼の生涯は、歴史の陰に隠された、一人の人物のドラマとして、これからも人々の心に刻まれ続けることでしょう。

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