エクスプロラトリアム

エクスプロラトリアム（the Exploratorium）は、アメリカ合衆国カリフォルニア州サンフランシスコにある著名な博物館です。「探検、探究する」を意味する"explorer"と「ホール、講義室」を意味する"auditorum"を組み合わせた造語がその名の由来となっています。主に子供や家族連れを対象とした科学博物館として広く知られていますが、その内容は科学に留まらず、芸術や人間の知覚といった幅広い分野を扱っています。

この博物館は、物理学者であり教育者でもあったフランク・オッペンハイマーの先見的な発想と多大な努力によって、1969年に開設されました。彼は初代館長として、1985年に亡くなるまでその運営を率いました。当初は美術宮殿（Palace of Fine Arts）内にありましたが、2013年にサンフランシスコのエンバーカデロ地区ピア15/17の現在の場所に移転しました。NGO組織によって運営されており、その独立した活動が特徴です。

エクスプロラトリアムの最も特徴的な点は、来館者が展示物に触れ、操作し、自ら体験することで科学や芸術の原理を理解することを重視する「ハンズオン展示」や「体験型展示」にあります。これは、一方的に知識を提示する従来の博物館とは一線を画すアプローチであり、体験型のサイエンスミュージアムの初期の成功例の一つとされています。観客参加型の展示自体はドイツ博物館に先例がありますが、科学に特化した体験型展示の先駆けとしては、カナダのオンタリオ・サイエンスセンターと並び称される存在です。

同館の展示制作には、科学者や教育者だけでなく、ビジュアルアーティスト、メディアアーティスト、パフォーミングアーティストなど、多様な分野の専門家が参加しています。芸術家が一定期間滞在して作品を制作・発表する「アーティスト・イン・レジデンス」制度も設けられており、これは科学と芸術の融合を象徴する取り組みです（日本人アーティストの岩井俊雄氏などもこの制度を利用しました）。

こうした多角的な姿勢は、開館当初から掲げられている標語「科学、芸術、そして人間の知覚のミュージアム」（Museum of science, art and human perception）に明確に示されています。エクスプロラトリアムは単なる科学博物館ではなく、体験型アートやメディアアートの展示施設としての側面も強く持っています。

エクスプロラトリアムが生み出した独自の展示デザインや教育手法に関するノウハウは、世界中の他の科学博物館に大きな影響を与えています。同館は、これらのノウハウを詳細なマニュアルとしてまとめ、『クックブック』（Cookbook、調理本）という名前で3巻まで出版しています。これにより、他の施設でもエクスプロラトリアムの優れた展示を再現することが可能となっています。

また、家庭や学校でも科学を楽しく学べるように、博物館の展示からインスピレーションを得た実験やアクティビティを紹介する子供向けのシリーズ本『スナックブック』（Snackbook、おやつの本）も刊行しています。これらの書籍は、博物館内のショップだけでなく、一般の書店でも広く入手できます。

すべての展示が再現可能というわけではありません。例えば「ウェーブ・オルガン」のように、サンフランシスコ湾という特定の場所の環境を利用して成立する、その場所ならではのユニークな展示も存在します。

エクスプロラトリアムは、物理的な展示施設だけでなく、デジタル分野でも先駆的な取り組みを行っています。1993年からは多数のオンライン科学展示や実験を提供するウェブサイトを運営しており、このサイトは質の高い科学教育リソースとして高く評価されています。インターネット分野で権威のあるウェビー賞（Webby Award）を、1997年に科学サイト部門が設立されて以来、これまでに5度も受賞しています。

2014年現在、エクスプロラトリアムはサンフランシスコで最も人気のある博物館の一つとして、年間110万人を超える来館者を集めています。その革新的な展示と教育アプローチは、多くの人々に科学や芸術への興味を喚起し続けています。

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