エジソンの火星征服

エジソンの火星征服

『エジソンの火星征服』（原題：Edison's Conquest of Mars）は、アメリカの作家ギャレット・P・サービス（Garrett P. Serviss）によって執筆され、1898年に刊行された冒険小説です。

概要

本作は、H・G・ウェルズが前年（1897年）に発表し、世界的な話題となったSF小説『宇宙戦争』の直接的な続編として位置づけられています。物語は、『宇宙戦争』で描かれた火星人の地球侵略とその後の出来事を引き継ぐ形で展開します。地球を壊滅的な危機に陥れた火星人に対し、人類が反撃に出るというプロットが中心となります。特筆すべきは、現実世界で「発明王」として知られていたトーマス・エジソンが、作中の主要人物として登場することです。彼は卓越した科学技術とリーダーシップを発揮し、火星への報復遠征隊を組織・指揮します。エジソンが自ら開発した先進的な宇宙船に乗り込み、遥か彼方の火星へと向かい、地球への攻撃を仕掛けた異星文明と対峙するという、当時の読者にとって非常に刺激的な内容でした。

発表形式と背景

『エジソンの火星征服』は、単行本として発表されるに先立ち、アメリカの有力紙であるニューヨーク・イヴニング・ジャーナル（New York Evening Journal）に連載小説として掲載されました。連載期間は1898年1月12日から同年2月10日までと、比較的短期間に集中して発表されています。これは、『宇宙戦争』が引き起こした読者の興奮や好奇心が冷めやらぬうちに、その世界観を用いた新たな物語を提供することで、新聞の販売促進を図る意図があったと考えられます。
H・G・ウェルズの『宇宙戦争』は、圧倒的な技術を持つ異星人による侵略に対し、地球側の科学技術が無力であるという、当時のSFとしては異例なほど悲観的でリアリスティックな描写を含んでいました。これに対し、サービスによる本作は、アメリカ的な技術力や個人（ここではエジソン）の英雄主義、そして地球側の反撃という、より楽観的でポジティブな要素を強く打ち出しており、『宇宙戦争』のテーマに対するある種のアンチテーゼ、あるいはパスティーシュ（模倣、あるいは寄せ集め）としての側面も持っています。

あらすじ

『宇宙戦争』終結後、火星人の攻撃から辛くも生き延びた人類は、彼らの高度な科学技術に脅威と同時に好奇心を抱きます。そして、地球への一方的な攻撃に対する報復の念が募ります。この危機に立ち上がったのが、かの有名なトーマス・エジソン博士でした。彼は自身の発明家としての才能を結集し、火星人のテクノロジーに対抗しうる、あるいは凌駕する新型宇宙船の開発に着手します。完成した宇宙船に乗り込んだエジソン率いる地球遠征隊は、地球を襲った火星本星へと向けて旅立ちます。未知の宇宙空間を航行し、火星に到達した遠征隊は、火星の環境やそこに存在する生命、そして火星文明の驚くべき実態を目撃します。そして、地球を襲った火星人たちとの直接対決が繰り広げられます。物語は、エジソンの発明品や知略、そして人類の勇気を描くとともに、火星文明の秘密や、地球外生命体の生態に迫るスペクタクルとして展開されます。最終的に、エジソンたちの活躍によって火星の脅威が排除される、あるいは人類の復讐が果たされるといった結末へと向かいます。

特徴とSF史における位置づけ

『エジソンの火星征服』の最大の特徴は、実在の人物であるトーマス・エジソンをフィクション作品の主人公に据えている点です。これは当時の読者にとって、現実と虚構が入り混じる独特のリアリティや面白さを提供しました。また、『宇宙戦争』という有名な先行作品の設定を引き継ぎつつ、物語の方向性を「異星人の侵略からのサバイバル」から「異星文明への報復と宇宙冒険」へと転換させたことは、その後のスペースオペラやSF冒険小説の萌芽としても位置づけることができるかもしれません。
本作は、ウェルズの『宇宙戦争』が提示した異星人侵略というテーマを、よりアメリカ的なフロンティア精神や技術楽観主義のレンズを通して再解釈した作品と言えます。シリアスで悲劇的な要素が強かった『宇宙戦争』に対し、『エジソンの火星征服』は、人間の知恵と勇気、そして科学技術の力をもって困難を克服する、よりエンターテイメント性の強い作品として、当時の読者に受け入れられました。SF史においては、初期の異星間交流や宇宙旅行を描いた作品の一つとして、また『宇宙戦争』の受容と影響を示す傍証としても興味深い作品です。

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