エドゥアルト・シュプランガー

エドゥアルト・シュプランガー：教育・哲学・心理学の巨匠

エドゥアルト・シュプランガー (1882-1963) は、20世紀のドイツを代表する教育学者、哲学者、そして心理学者です。ベルリンに生まれ、ライプツィヒ大学、ベルリン大学、そしてテュービンゲン大学で教授職を務めました。1936年から1937年には客員教授として日本に滞在しましたが、これはナチス政権への批判を理由にドイツ国外へ一時的に身を置く政治的措置であったと考えられています。

ディルタイ解釈学と精神科学

シュプランガーの思想は、ヴィルヘルム・ディルタイの解釈学の影響を強く受けています。彼は、ドイツ独自の精神科学に根ざした教育学を代表する人物として知られています。20世紀前半の教育学における様々な論争においても中心的な役割を果たし、その影響は現代教育にも及んでいます。

生の諸形式と人間の類型論

シュプランガーは、ディルタイの世界観論を基盤に、人間の「生の諸形式」(Lebensformen) という概念を提唱しました。これは、人間の生き方や価値観を類型化しようとしたもので、理論型、経済型、審美型、宗教型、権力型、社会型の6つの類型を提示しています。特に「経済的人間」(homo oeconomicus) の概念には独自の見解を加え、これらの類型を人間の成長過程における具体的な姿として描き出しました。

この類型論は、個々の人間がどの領域に文化的価値を見出すかによって分類されている点が特徴です。例えば、理論型は真理や論理的な理解を重んじ、経済型は金銭や社会的地位を重視するなど、それぞれの類型は明確な価値観と行動様式を示しています。

郷土科と文化教育学

シュプランガーは、「郷土科」の教育的価値に関する講演において、精神的な根源感情や土地への愛着といった概念をいち早く取り上げました。しかし、皮肉にもこれらの概念は、後にナチス政権のイデオロギーに取り込まれてしまうことになります。戦後も「郷土科」に関する彼の講演は繰り返し刊行されており、その文化遺産としての価値は高いと評価されています。彼の教育学は、文化教育学と評されることもあります。

職業教育論と三段階論

シュプランガーは職業教育学にも重要な貢献をしました。ヴィルヘルム・フォン・フンボルトの思想を踏まえつつも、その限界を超える試みとして、一般教育と職業教育の関係性を詳細に論じています。特に有名なのが「三段階論」です。

この三段階論は、まず一般教育によって基礎的な人間形成を行う第一段階、関心や才能に応じて専門的な人間形成を深める第二段階、そして、職業教育を一般教育へと発展させる第三段階から構成されています。シュプランガーは、これらの段階が連続的に進行し、それぞれの段階が完了する前に次の段階が始まるという成長過程を提唱しました。

主要な著作と影響

シュプランガーは数多くの著作を遺しており、『生の形式』（Lebensformen）はその代表作です。この著作は、多言語に翻訳され、世界中の教育学者や思想家に大きな影響を与えました。また、『青年心理学』（Psychologie des Jugendalters）なども重要な著作として挙げられます。彼の著作は、現在でも多くの研究者によって参照され、その思想は現代教育に多大な影響を与え続けています。

まとめ

エドゥアルト・シュプランガーは、教育学、哲学、心理学の分野で多大な功績を残した重要な人物です。彼の思想は、現代教育の様々な問題を考える上で、依然として重要な示唆を与え続けています。彼の業績は、単なる学問的な成果にとどまらず、20世紀ドイツの社会状況や歴史的文脈を理解するためにも不可欠なものです。

もう一度検索