エドワード・ゴーリー

エドワード・ゴーリー(1925年2月22日-2000年4月15日)は、アメリカを代表する絵本作家の一人です。本名はエドワード・セントジョン・ゴーリー。彼の作品は、一見子供向け絵本のように見えますが、その実態は、道徳や倫理観を軽々と飛び越える、ナンセンスで不条理、時に残酷な世界観を描いた、大人向けの絵本と言えるでしょう。

ゴーリー作品最大の特徴は、その独特の世界観です。可愛らしい絵柄とは裏腹に、物語は奇妙で不可解な出来事に満ち溢れ、登場人物たちは不可解な最期を遂げることが少なくありません。しかし、その残酷さは決して嫌悪感を与えるものではなく、むしろブラックユーモアとして昇華され、読者に奇妙な笑いと深い余韻を残します。さらに、彼の作品は、徹底して韻を踏んだ言葉選びによって、独特のリズムと寓意性を生み出しています。これは、彼の詩人としての才能も反映していると言えるでしょう。

ゴーリーのイラストは、細い線で緻密に描かれたモノクローム画が特徴です。その繊細なタッチは、まるで古い版画のような質感で、独特の雰囲気を醸し出しています。一見シンプルながらも、細部までこだわり抜かれたイラストは、物語の世界観をさらに深みのあるものへと高めています。

ゴーリーは、幻想的な作風と、アナグラムを用いた数々のペンネームを使い分けて作品を発表しました。その数は何十にも及び、熱心なコレクターを世界中に生み出しています。代表的なペンネームとしては、Ogdred Weary、Regera Dowdy、Dogear Wrydeなどがあります。これらのペンネームもまた、彼の作品の魅力をさらに深める要素となっています。

ゴーリーの生い立ちも、彼の作品に影響を与えたと考えられます。シカゴに新聞記者の息子として生まれ、シカゴ・アート・インスティチュートで美術を学んだ後、アメリカ陸軍に入隊。工兵隊に所属し、ダグウェイ実験場で毒ガスのテストに従事するなど、特異な経験をしています。その後、ハーバード大学でフランス文学を専攻し、詩人のフランク・オハラと同室だったことも知られています。この多様な経験が、彼の独特な世界観を形成したと言えるでしょう。

ハーバード大学卒業後は、出版社ダブルデイ社で働き、装丁やタイポグラフィーなどを担当。その後、ランダムハウス社のルッキング・グラス・ライブラリーに移り、『宇宙戦争』などの装丁・イラストを担当しました。さらに、自身の出版社ファントッド・プレスを設立するなど、精力的に活動しました。

ゴーリーは、ニューヨーク・シティ・バレエの大ファンでもあり、バレエ団との交流を通じて舞台演出にも携わっています。彼の作品を元に作られたミュージカル『ゴーリー・ストーリーズ』の上演も手がけました。

晩年はマサチューセッツ州ケープコッドに移り住み、1985年にはヤーマスポートの館を買い取りました。この館は、現在「エドワード・ゴーリー・ハウス」として一般公開されています。ゴーリーは生涯独身を通し、子供の頃から猫を愛し、軍隊生活以外では常に猫と共に暮らしました。2000年4月15日、心臓発作のため75歳で亡くなりました。

ゴーリーの作品は、多くの言語に翻訳されており、世界中で愛されています。日本では、河出書房新社から多くの作品が翻訳出版されています。『ギャシュリークラムのちびっ子たち』『うろんな客』『題のない本』など、彼の代表作は、日本でも高い人気を誇っています。彼の作品は、その独特の世界観と芸術性によって、これからも多くの人々を魅了し続けることでしょう。

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