エマニュエル・サエズ

エマニュエル・サエズ：世界的な所得格差問題の第一人者

エマニュエル・サエズ (1972年生まれ) は、スペイン生まれのフランス国籍を持つ経済学者です。カリフォルニア大学バークレー校教授として活躍し、世界中の所得格差問題に関する研究で知られています。特に、トマ・ピケティとの共同研究は、世界各国における貧困層、中間層、富裕層の収入格差の実態を詳細に分析し、大きな注目を集めました。

研究内容と成果:

サエズとピケティの研究は、アメリカ合衆国における富裕層の所得が国民総所得に占める割合が、過去30年以上拡大していることを示しました。その結果、1930年代の大恐慌以前の水準に匹敵するほどの深刻な不平等が生じていると結論づけました。彼らの研究は、所得格差の実態を客観的に示しただけでなく、その背景にある社会構造や経済政策の問題点を浮き彫りにしました。

サエズは、この問題に対する解決策として、富裕層への課税強化を強く主張しています。具体的には、最高税率を70%から90%に引き上げることを提案しており、その主張は世界中の政策議論に大きな影響を与えています。

学術的貢献と受賞歴:

サエズは、その卓越した研究業績によって数々の栄誉に輝いています。2009年には、「40歳以下のアメリカ合衆国経済学者で経済学理論・知見への貢献が最も顕著な者」に贈られるジョン・ベイツ・クラーク・メダルを受賞しました。受賞理由は、最適な政策を経済や行動の測定可能な側面に結び付ける理論の洗練と、実証研究の独創性と精密さが高く評価されたためです。

さらに、2010年にはマッカーサー・フェローに選出され、2023年にはクラリベイト引用栄誉賞を受賞しています。これらの賞は、サエズの研究が経済学界に与えた大きな影響を如実に示しています。

研究テーマの深堀り:

サエズの研究は、最適課税や所得移転といった政策課題に焦点を当てています。特に、富と所得の不平等、資本所得課税、退職者層に関する研究は、その分野における主要な貢献となっています。理論研究に加え、アメリカ合衆国の世帯単位の統計データを用いた実証研究も多数発表し、その理論を裏付ける実証的な根拠を示しています。

特に、最上位0.1%の富裕層に注目した研究は、「格差の圧縮」と「格差の拡大」という概念を生み出し、理想的な富の分配に関する議論に大きな影響を与えています。

批判と反論:

サエズとピケティの研究は、一部から批判も受けています。保守派の経済学者からは、「市場所得」のみを計測対象としているため、不平等を誇張しているという指摘があります。市場所得とは、政府からの給付金や補助金を除外した税引き前の所得を指し、失業保険や社会福祉給付などは含まれていません。

これに対し、サエズは、市場所得は1913年以降継続的に計測可能なデータとして、最も信頼性の高い指標であると反論しています。しかし、この批判は、サエズの研究成果の解釈に際して重要な考慮点であると言えます。

人物像と著作:

サエズは、サーフィンを愛する気さくで親しみやすい人物として知られています。シカゴ大学、ハーバード大学、そして母校であるマサチューセッツ工科大学からの招聘を断ったという逸話も伝えられています。

主要な著作としては、『Handbook of Public Economics』、『Le Triomphe de l'injustice』、『つくられた格差 - 不公平税制が生んだ所得の不平等』(ガブリエル・ズックマンとの共著)などがあります。

結論:

エマニュエル・サエズは、世界的な所得格差問題における第一人者として、その研究成果と主張が世界経済に大きな影響を与えています。彼の研究は、所得格差という複雑な問題を理解し、より公正な社会を構築するための重要な知見を提供しています。しかし、その研究成果に対する批判や反論も考慮しつつ、彼の主張を多角的に理解することが重要です。

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