エミール・アドルフ・フォン・ベーリング

エミール・アドルフ・フォン・ベーリング：ジフテリア治療のパイオニア

エミール・アドルフ・フォン・ベーリング（1854年 - 1917年）は、ドイツ出身の医学者であり、実業家です。1901年、ジフテリアに対する画期的な血清療法の研究によって、史上初のノーベル生理学・医学賞を受賞しました。彼の業績は、免疫学の発展に多大な貢献を果たし、数多くの後継者たちに影響を与え続けました。

困難な生い立ちと軍医としてのキャリア

ベーリングは、西プロシアの貧しい家庭に生まれました。経済的な理由から、学費の負担が少ない陸軍医科専門学校に進学し、軍医としてのキャリアをスタートさせます。軍医として勤務する中で、彼は創傷治療に関する研究に没頭。ヨードホルムの殺菌効果を実証し、その功績が認められて、著名な薬理学者ピングの指導の下で研究を続けることになります。

コッホ研究所での研究とジフテリア血清療法

その後、軍を辞めてベルリン衛生試験所に移り、かの有名なロベルト・コッホの助手として、衛生学を学びました。1884年、フリードリヒ・レフラーによるジフテリア菌の純粋培養成功は、ベーリングの研究人生における転機となりました。当時、ジフテリアは致死率40％にも及ぶ恐ろしい病気であり、有効な治療法の開発が切望されていました。

ベーリングは、当初薬物による殺菌を試みましたが、思うような効果は得られませんでした。しかし、彼はジフテリアに感染しても回復する患者がいることに注目し、血液中に感染防御に働く物質が存在するのではないかと考えました。コッホの原則に基づき、彼はこの物質の分離・精製に挑み、動物実験を通じてジフテリアに対する血清療法の開発に成功します。

北里柴三郎との共同研究とノーベル賞受賞

1890年、ベーリングは北里柴三郎との共同研究で得られた成果をドイツ医学週報に発表しました。しかし、その後ジフテリアに関する重要なデータはベーリング単独名義で発表されたことで、北里柴三郎はノーベル賞受賞には至りませんでした。この点については、ベーリング自身の功績を強調した発表方法、ノーベル委員会の判断、当時の共同受賞の慣習などが背景にあるとされています。人種差別が原因であったという説も存在しますが、ノーベル賞委員会はこれを否定しています。

ベーリングは、1901年「ジフテリアに対する血清療法の研究」により、最初のノーベル生理学・医学賞を受賞しました。授賞式のスピーチでは、北里柴三郎との共同研究の成果であることを強調し、彼の貢献を称賛したと伝えられています。

没後とその後

ベーリングの死後も、彼の功績は免疫学の発展に大きな影響を与え続けました。彼の名を冠した「エミール・フォン・ベーリング賞」が創設され、免疫学分野で顕著な業績を上げた研究者に授与されています。日本においても「ベーリング・北里賞」が1980年から1997年まで授与されていました。

さらに、ドイツのマールブルクにはベーリングウェルケ工業団地があり、多くのバイオテクノロジー関連企業が進出しています。ベーリングの名は、今日でも多くの製薬会社の名前に見ることができます。彼の研究は、医学、特に免疫学の進歩に革命を起こし、現在でも世界中の多くの命を救い続けているのです。

ベーリング・北里賞 受賞者一覧

1980年：小谷尚三
1982年：岸本忠三
1984年：日沼頼夫
1986年：川崎富作
1988年：谷口維紹
1990年：石坂照子
1992年：本庶佑
1994年：該当者なし
* 1996年：長田重一、ペーター・クラマー

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