エメロン

エメロン（EMERON）

エメロンは、日本の大手生活用品メーカー、ライオン株式会社（設立当時はライオン油脂株式会社）が1965年8月に市場に投入した、ヘアケア製品や石鹸を中心としたブランドです。同社が本格的に香粧品市場への参入を図るにあたり、その先駆けとして位置づけられました。約40年間にわたり多くの消費者に親しまれましたが、2005年頃に惜しまれながら生産を終了しました。

ブランド誕生の背景と「エメロン」の名前

エメロンが誕生した1960年代、ライオン油脂は主に洗濯用洗剤や石鹸のイメージが強く、化粧品や香粧品分野においては先行する他社ブランドが確立されていました。この状況下で新たな市場を開拓するため、ライオン油脂は強力なブランドイメージを構築する必要性を感じていました。当時の「ライオン油脂」という社名が、香粧品に求められるやわらかさや優雅さとは相容れない、威厳のある響きを持つと考えられたことから、企業名を前面に出すよりも、新しいブランド名を育て上げることが優先されました。これが後に企業イメージ向上にも繋がるという戦略が立てられたのです。

ターゲットを主に女性に定めたことから、ブランド名は企業名の一部である「ライオン」と、女性が憧れる宝石の名前を組み合わせるというアイデアが生まれました。数ある宝石の中から選ばれたのは「エメラルド」です。これは単に美しい宝石であるだけでなく、紺碧の地中海の水の輝きや、「愛」という宝石言葉が、ブランドに甘さ、憧れ、洗練された印象、高級感を付与し、女性にとって魅力的なイメージを喚起すると考えられたためです。「エメラルド」と「ライオン」を組み合わせた造語、それが「エメロン（EMERON）」なのです。

沿革と製品展開

エメロンは1965年のブランド立ち上げと同時に、シャンプーと石鹸のラインナップでスタートしました。翌1966年には、来日したビートルズの日本武道館公演の背景にエメロンの広告が映り込むという、思わぬ形で歴史的な一コマに名を刻みました。

ヘアケア製品としては、1968年にスプレーリンス、1970年にはクリームリンスを発売。特にエメロンクリームリンスはブランドの象徴的存在となります。1969年に花王石鹸（現・花王）から競合ブランド「カオーフェザー」が登場し、市場での競争が本格化する中で、エメロンは画期的なテレビCM戦略を展開します。

画期的なCM戦略：「ふりむかないで」

1970年にエメロンクリームリンスのCMとして始まったのが、「日本縦断ふりむき娘」シリーズです。発売前には船山喜久弥氏が一般女性に製品への関心を尋ねるCM、発売後には街頭で後姿の女性に声をかけ、振り向いた際の美しい髪を見せるというユニークな手法が話題を呼びました。このCMは日本全国を舞台に展開し、素人女性を起用する斬新さで注目を集めました。

さらに、このCMシリーズを象徴するのがCMソング「ふりむかないで」です。ハニー・ナイツが歌唱を担当したこの曲は、全国各地の地名を歌詞に織り込むという試みを行い、その歌詞は最終的に72種類にも及びました。このCMは7年間にわたって放映され続け、曲も1972年にレコード化されて60万枚を超える大ヒットとなりました。「ふりむかないで」は、エメロンブランド、そして当時の日本のCM史を語る上で欠かせない名曲として記憶されています。

初期のエメロンCMは、ブランド名であるエメロンを前面に出すため、CMの最後に企業ロゴ（CI）を表示しないという方針が取られていましたが、1983年からはCMの最後に「ライオンのヘアケア製品」と企業名が挿入されるようになります。また、過去の「ふりむき娘」CMに出演した女性たちの“その後”を追った続編CMも制作されました。

その後の展開と主要製品

1975年にはアグネス・ラムをCMキャラクターに起用した『エメロンミンキートリートメント』を発売。ヘアケアだけでなく、スキンケア分野にも進出し、1976年にはスキンクリームを発売しました（1978年全国発売）。1980年には『エメロンアクアミー』、1992年には後に独立ブランドとなる『エメロン植物物語』、2000年には『エメロンアクアピュア』を投入するなど、時代に合わせて様々な製品を展開しました。2002年には、『エメロン石鹸の香りシャンプー』のCMソングとして、郷ひろみ氏の歌唱で再び「ふりむかないで」が使用され、往年のファンを喜ばせました。

エメロンブランドからは、初期の石鹸や粉末シャンプー、オイルシャンプー、クリームシャンプー、そしてフケ・かゆみ対応のグリーシャンプーや、エチケット、ミンキー、アクアミー、アクアピュア、石鹸の香りシリーズなど、多岐にわたる製品が生まれました。特に「エチケット」や「アクアミー」、「植物物語」といった製品は、後にエメロンから独立したブランドとして展開されました。

CMには、岡田奈々、関根恵子、アグネス・ラム、田村正和、研ナオコ、桃井かおり、小泉今日子、PUFFY、竹内結子など、当時の人気タレントや女優が多数起用されました。

競合ブランドとしては、花王の「カオーフェザー」をはじめ、「エッセンシャル」「メリット」、牛乳石鹸の「シャワラン」、資生堂の「サボン・ドール」などが挙げられます。

ライオンの香粧品事業の基盤を築き、特にヘアケア市場において大きな足跡を残したエメロンは、日本の高度成長期における大衆消費財ブランドの成功例の一つとして、今も多くの人々の記憶に残っています。

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