エリザベス・ボウエン

エリザベス・ボウエン - 小説家とその文学世界

エリザベス・ボウエン（Elizabeth Bowen、1899年6月7日 - 1973年2月22日）は、アイルランド出身の著名な小説家であり、20世紀の文学界で重要な地位を占めています。彼女は、心理小説や短編小説の巨匠として知られ、また、ゴーストストーリーの作家としてもその名を馳せています。彼女の作品は、アイルランドとイギリスの社会的、歴史的背景を巧みに描写し、深い心理洞察を提供しています。

生い立ちと教育

ボウエンはダブリンで生まれましたが、その家系はウェールズからの移民で、17世紀にアイルランドに根付いたアングロ・アイリッシュの一族です。父親のヘンリ（6世）は法廷弁護士として働き、母フローレンスとともにダブリンで生活していました。1907年には家庭内の問題が影響し、母とともにイングランドへ移住します。母の死後、彼女は叔母に育てられ、ダウン・ハウス・スクールで教育を受けました。

彼女は後にロンドンの美術学校に通いますが、自身の文筆の才能を認識し、ヴァージニア・ウルフなどと交流しながら文学の道を歩み始めます。1923年には初めての短編集『Encounters』を世に送り出します。

作家としての活動と私生活

1923年、ボウエンはアラン・キャメロンと結婚するものの、実体はセックスレスの関係であったと伝えられています。彼女は多くの婚外関係を持ち、その中でもカナダの外交官チャールズ・リッチーとの関係は長期にわたり続きました。彼女は一時期オックスフォード近郊に住みながら、多くの作家と親交を深め、初期の傑作『最後の九月』などを執筆しました。

1937年にはアイルランド文芸アカデミーのメンバーとなり、彼女の作家活動はますます活発になっていきました。第二次世界大戦中はイギリス情報省で働き、戦時中の社会情勢を題材にした作品も数多く生み出しました。

代表作と文学的特徴

彼女の長編小説には『北へ』『パリの家』『心の死』『エヴァ・トラウト』などがあり、特に『エヴァ・トラウト』は1970年のブッカー賞候補にもなりました。また短編小説でも、約90篇を発表し、その中には『恋人は悪魔』などのゴーストストーリーも含まれます。彼女の作品は、アイルランド独立戦争や二度の世界大戦を背景に、人々の不安な心理を映し出しています。

ボウエンの作品はその特徴的な文体により、深層心理の把握や人物の心情に迫る点で評価され続けています。彼女自身は文体について「語順がおかしいのは創作上自然に生まれたものであり、散文も詩の属性を持つ」と述べていて、彼女の作品には曖昧さや多義性が色濃く表れています。

晩年と遺産

1960年代にボウエンズ・コートを手放した後、ボウエンはソルトウッドに移り住みます。彼女はその後も多くの講演活動を行い、作家活動を続けましたが、1972年に肺がんを患うことになります。1973年にロンドンで死去し、ボウエンズ・コート内に葬られました。

ボウエンの業績は、セント・コールマン教会に置かれた記念額によって今日も記憶されています。彼女の作品は、時を超えて人々に影響を与え続け、20世紀の文学における重要な一翼を担っています。彼女の作品は今なお多くの読者に新たな視点を提供しつづけているのです。

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