エリック・テンプル・ベル

エリック・テンプル・ベル（Eric Temple Bell）は、1883年2月7日にスコットランドで生まれ、1960年12月21日にその生涯を閉じた、数学者であり同時にSF作家としても知られるユニークな人物です。彼はスコットランドに生を受けましたが、その人生の大半はアメリカ合衆国で送られました。学術的なノンフィクション作品を発表する際には本名であるエリック・テンプル・ベルの名を用い、フィクション、特にSF作品を発表する際にはジョン・テイン（John Taine）というペンネームを使用し、二つの異なる分野で活躍しました。

幼少期、ベルはスコットランドのアバディーン近郊、ピーターヘッドで、ヘレン・ジェーン・ライアルとジェームズ・ベル・ジュニアの間に生まれた三人の子供の末っ子でした。彼がまだ生後15か月の1884年、父はアメリカのカリフォルニア州サンノゼへと移住します。その後、1896年に父が亡くなったことに伴い、家族はイングランドのベッドフォードへ戻りました。イングランドではベッドフォード・モダン・スクールで学び、この時期に教師であったE. M. ラングレーから数学への深い関心と、その探求を続けるよう強く勧められたことが、彼のその後の進路に大きな影響を与えたと言われています。

1902年、ベルはカナダのモントリオールを経由して再びアメリカ合衆国へと渡ります。そして、ここアメリカで高等教育を受け、数学者としての基盤を築きました。1904年にはスタンフォード大学から学位を、1908年にはワシントン大学から、さらに1912年にはコロンビア大学から学位を取得するなど、精力的に学びを深めました。学業を終えた後、彼はまずワシントン大学で教壇に立ち、後にカリフォルニア工科大学へと移りました。ワシントン大学在籍時には、後に著名な数学者となるハワード・ロバートソンを指導し、彼にカリフォルニア工科大学での博士課程進学を勧めるなど、後進の育成にも力を注ぎました。

数学者としてのベルの主要な研究分野は数論でした。特に、組合せ論における重要な数列である「ベル数列」や、数論関数や多項式に関する「ベル多項式」、「ベル数」などは彼の名にちなんで命名されており、その貢献の大きさがうかがえます。彼はまた、伝統的な陰計算（あるいは記号法として知られていた手法）に対し、論理的に厳密な基礎を与えようと試みました。これは完全な成功には至りませんでしたが、形式的冪級数として母関数を扱い、収束の問題を一時的に棚上げして多くの成果を導き出すという手法を用いました。その解析学における功績が認められ、1924年には数学分野の権威ある賞であるボッチャー記念賞を受賞しています。さらに、1927年にはアメリカの最高学術機関である米国科学アカデミーの会員に選出され、その数学者としての地位を確固たるものとしました。

数学の研究・教育と並行して、ベルは作家としても精力的に活動しました。本名のエリック・テンプル・ベル名義では、『数学をつくった人びと』（Men of Mathematics）や『数学は科学の女王にして奴隷』（Mathematics: Queen and Servant of Science）といった、数学の歴史や哲学に関する優れたノンフィクション作品を執筆し、多くの読者に数学の世界への扉を開きました。一方、ジョン・テインというペンネームでは、独創的なSF作品を多数発表し、こちらの分野でも才能を発揮しました。一つの人生の中で、厳密な論理に基づく数学と、自由な発想によるSFという、全く異なる二つの世界を行き来し、それぞれにおいて顕著な業績を残したことは、エリック・テンプル・ベルという人物の特異な才能を示すものです。

晩年もカリフォルニアで過ごし、1960年12月21日、ワトソンビルで77年の生涯を閉じました。数学史に名を刻む研究者として、そして想像力豊かなSF作家として、エリック・テンプル・ベルはその多才な活動によって、後世に多大な影響を与え続けています。

もう一度検索