エリー・ナイ

エリー・ナイ

ドイツを代表する女性ピアニストの一人、エリー・ナイ（1882年9月27日 - 1968年3月31日）は、特にルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの作品解釈において高い評価を得ました。その功績により、1940年にはベートーヴェンゆかりの地であるボン市からベートーヴェン賞を授与されています。

生涯と音楽教育

エリー・ナイはデュッセルドルフに生まれましたが、音楽を愛する両親のもと、ボンで育ちました。音楽的な才能は早くから開花し、著名な師事者たちに学びました。フランツ・ヴュルナーやイジドア・ザイスに師事したほか、名高いテオドール・レシェティツキーやエミール・フォン・ザウアーからも指導を受けています。

思想と政治との関わり

ナイの生涯において、その政治的思想は避けて通れない側面です。彼女は若い時期から反ユダヤ主義的な考えを持ち始め、早い段階で師事していた人物に対しても否定的な見解を述べています。この傾向は時を経るごとに強まり、人間性に基づく倫理観は特定の民族、すなわち「真正な人種」とされるゲルマン人にのみ適用されるべきだと考えるようになりました。

1937年には国家社会主義ドイツ労働者党（ナチス）に入党し、同年アドルフ・ヒトラーから「教授」の称号を授与されるなど、ナチス体制下で優遇された立場にありました。また、当時の多くのナチス関連組織にも所属し、体制への協力を惜しみませんでした。第二次世界大戦中、ポーランド総督府が置かれたクラクフにも赴き、そこで「総督府フィルハーモニー」の設立に立ち会うなど、積極的な関与が見られます。

キャリアと活動の軌跡

キャリアの初期、1906年2月9日には、ウェルテ・ミニョン社の自動再生ピアノ用に13曲の録音を残しています。これは当時の自動再生ピアノ用ロールとしては非常に初期のものにあたります。

私生活では、1911年にオランダ人の指揮者・ヴァイオリニスト、ヴィレム・ヴァン・ホーフストラーテンと結婚し、娘のエレオノーレ・ファン・ホーフストラーテンは後に舞台女優として活躍しました。1921年頃からはアメリカ合衆国に移り住み、特にベートーヴェンやブラームスの作品演奏でその名を広く知らしめ、この時期に初のレコード録音も行いました。アメリカ滞在中にはシカゴ出身のポール・アレーズと再婚しますが、この結婚生活は長く続きませんでした。1930年には、芸術活動の拠点を再びヨーロッパに移しています。

戦後と晩年

ナチス体制との深い関わりは、戦後、エリー・ナイに深刻な批判を招き、彼女のキャリアに暗い影を落としました。公的な活動における名誉回復が認められるのは、関連する審理を経て、ようやく1952年になってからでした。

名誉回復後、エリー・ナイは精力的に演奏活動を再開し、死去するわずか数週間前までその情熱を燃やし続けました。彼女は壮年期を過ぎてもなお、極めて難易度の高い技巧的な作品を華麗に弾きこなし、その演奏水準は若い世代のピアニストと比較してもほとんど遜色ないほどでした。国内外の主要なコンサートホールを満員にし、79歳から86歳にかけても積極的に演奏旅行を行いました。晩年には、彼女の主要なレパートリーを網羅したステレオ録音やテレビ出演などが記録され、多くの栄誉も授与されています。

エリー・ナイは、優れた音楽家としてベートーヴェン演奏に大きな足跡を残した一方で、その政治的な言動が後世の評価を複雑なものにしています。彼女の音楽的な功績は広く認められていますが、ナチス体制下での行動は常に議論の的となっています。

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