エルカ酸

エルカ酸とは

エルカ酸（Erucic acid）は、一価不飽和のω-9脂肪酸であり、化学的にはシス-13-ドコセン酸として知られています。植物油、特にナタネ、アラセイトウ、カラシなどの種子に含まれており、これらの植物油の脂肪酸残基の40〜50%を占めることがあります。ただし、エルカ酸のトランス異性体はブラシジン酸と呼ばれます。

健康への影響

エルカ酸は、かつて過剰摂取による心臓疾患のリスクが指摘されていました。動物実験において、エルカ酸を多量に含む飼料を長期間与えた場合に心筋への影響が確認されたためです。現在、食用として広く流通しているナタネ油は、エルカ酸含有量を大幅に低減し、代わりにオレイン酸を豊富に含むキャノーラ油が主流となっています。

用途

エルカ酸は、その化学的特性から様々な用途に利用されています。

化粧品: エルカ酸の誘導体は、化粧品成分として広く使用されています。エルカ酸オクチルドデシルは、合成ホホバ油とも呼ばれ、皮膚に潤いを与え、滑らかにする効果が期待されます。エルカ酸オレイルやエルカ酸グリセリルなども、保護剤、油剤、閉塞剤、乳化剤、保湿剤として利用されます。
工業用途: 重合性と乾燥性を持つエルカ酸は、油絵具の結合剤や写真フィルムのコーティング剤として使用されます。また、潤滑油としての性能も高く、摩擦学の分野で利用されています。エルカ酸アミドは、プラスチックフィルムの製造過程で、フィルム表面の滑りを良くするために添加されます。
バイオディーゼル: エルカ酸は高い熱量、低い発火点、高いセタン価、良好な潤滑性を持つため、バイオディーゼルの構成要素としても注目されています。
医薬品: オレイン酸とエルカ酸を4:1の割合で配合したLorenzo's Oilは、副腎白質ジストロフィーの治療に用いられています。

エルカ酸からベヘン酸へ

エルカ酸は、局所水素添加という化学プロセスを経ることで、飽和脂肪酸であるベヘン酸に変換することができます。

このように、エルカ酸は食用油としての利用は制限されているものの、誘導体は様々な分野で活用されており、私たちの生活に深く関わっています。

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