エルロンドの会議

エルロンドの会議：物語を動かす知恵と決断の場

J・R・R・トールキンのファンタジー小説『指輪物語』に登場する「エルロンドの会議」は、物語の転換点となる重要な場面です。裂け谷の領主エルロンドが主催するこの会議には、様々な種族の代表が集まり、冥王サウロンの脅威と一つの指輪を巡る問題について議論を交わします。

会議の背景

物語冒頭、ビルボ・バギンズがホビット庄を去り、指輪をフロド・バギンズに託します。その後、魔法使いガンダルフは指輪の正体がサウロンの作った「一つの指輪」であることを突き止め、フロドに旅立つよう促します。フロドは仲間と共に旅立ちますが、黒の乗り手に追われ、エルフの隠れ里である裂け谷を目指します。

会議の概要

裂け谷に集まったのは、エルフ、ドワーフ、人間、そしてホビットといった自由の民の代表たち。エルロンドは、彼らがそれぞれの理由で裂け谷に来たように見えて、実は指輪とサウロンの脅威について話し合うために集められたのだと告げます。

会議では、指輪の歴史、サウロンの野望、そして指輪を破壊する方法について議論が交わされます。ドワーフのグローインは、サウロンの使者がドワーフの王に指輪の情報を求めてきたことを報告し、人間のボロミルは、指輪に関する予知夢を見たことを語ります。また、馳夫（アラゴルン）は、自らがイシルドゥルの後継者であることを明かし、折れた剣ナルシルを掲げます。

ガンダルフは、指輪がゴクリの寿命を延ばしたいきさつや、イシルドゥルの残した巻物から指輪の判別方法を特定した経緯を説明します。さらに、魔法使いサルマンが裏切り、自らが権力を握ろうとしていることを告白。会議は紛糾し、指輪をどう扱うべきか、様々な意見が出されます。

最終的に、エルロンドは指輪を破壊する唯一の方法が、指輪が鍛えられたモルドールの滅びの山の火に投げ込むことだと結論付けます。フロドは自らその役目を引き受けることを決意し、サムワイズ・ギャムジーもフロドに同行することを許されます。

会議の意義とテーマ

トム・シッピーは、この会議を「ほとんど真価を認められてこなかった傑作」と評し、その文化的深みと複雑な構成を評価しています。会議には様々な文化を持つ人々が集まり、それぞれの立場から意見を述べ合うことで、物語に深みを与えています。

また、この会議は善と悪のテーマについても深く掘り下げています。エルロンドは、指輪を破壊することがエルフ自身の体制を破壊することになると知りながらも、「人道的義務」を追求します。フレミング・ラトリッジは、この会議が『指輪物語』のキリスト教的側面を最も表面に引き出していると指摘し、善と悪の戦いにおける神の意志について考察しています。

映画版との比較

ピーター・ジャクソン監督の映画「ロード・オブ・ザ・リング」では、会議の構成が原作から変更されています。指輪の歴史はプロローグに移され、会議のシーンは短縮されました。ダニエル・ティモンズは、ジャクソンの解釈を批判しつつも、フロドが旅を引き受ける場面は原作の水準に達していると評価しています。ジュディス・コールマンは、映画ではアラゴルンに焦点が当てられ、フロドの役割が薄れていると指摘しています。

まとめ

「エルロンドの会議」は、『指輪物語』において、物語の方向性を決定づける重要な場面です。様々な種族の代表が集まり、知恵と勇気、そして犠牲の精神を持って、一つの指輪を巡る問題に立ち向かいます。この会議は、物語のテーマを深く掘り下げ、読者に多くの示唆を与えてくれるでしょう。

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