エレクトロニック・ミュージック・スタジオ

エレクトロニック・ミュージック・スタジオ（Electronic Music Studios Ltd、通称EMS）は、1969年にイギリスで設立された電子楽器メーカーです。

概要

1970年代、EMSはアナログ・シンセサイザーの分野で、代表的なメーカーであるモーグとは異なる個性的な音質と音色を持つシンセサイザーを開発・製造することで知られていました。モーグのシンセサイザーが、太く、暖かく、メロウなサウンドを特徴とするのに対し、EMSのシンセサイザーは、より実験的で、先鋭的、そして時に予測不可能なサウンドを生み出す能力を持っていました。この独自のサウンドは、多くのミュージシャンやサウンド・デザイナーにとって魅力的なものであり、EMSのシンセサイザーは、幅広いジャンルの音楽作品で使用されました。

EMSの製品の中でも特に有名なのが、VCS3とそのポータブル版であるSynthi Aです。VCS3は、コンパクトな筐体に、オシレーター、フィルター、エンベロープ・ジェネレーターなどの機能を搭載した、多機能なシンセサイザーでした。Synthi Aは、VCS3の機能を持ち運び可能なブリーフケースに収めたもので、より柔軟な音楽制作環境を提供しました。

これらのシンセサイザーは、ピンク・フロイドが1973年に発表したアルバム『狂気』で使用されたことで、その名声を確立しました。『狂気』は、ロック音楽史に残る傑作として知られており、その中でVCS3とSynthi Aが作り出す独特のサウンドは、アルバムの雰囲気を大きく特徴づける要素となりました。特に、アルバムに収録された「On the Run」では、Synthi Aが生成するシーケンスサウンドが使用され、楽曲の緊張感と高揚感を高める役割を果たしています。

ピンク・フロイド以外にも、ブライアン・イーノやジャン・ミッシェル・ジャールなど、数多くの著名アーティストがEMSのシンセサイザーを愛用しました。ブライアン・イーノは、アンビエント・ミュージックの創始者の一人として知られていますが、EMSのシンセサイザーを積極的に使用し、その音楽の可能性を追求しました。ジャン・ミッシェル・ジャールは、シンセサイザーを駆使した壮大なオーケストレーションで知られていますが、EMSのシンセサイザーもそのサウンドを構成する重要な要素として活用しました。

EMSのシンセサイザーは、その独特なサウンドと革新的な設計によって、電子音楽の歴史に大きな足跡を残しました。現在でも、多くのミュージシャンやサウンド・デザイナーが、EMSのシンセサイザーを愛用し、そのサウンドを追求しています。

外部リンク

Electronic Music Studios (London) Ltd.

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