エンガディン (水上機母艦)

エンガディン：フェリーから水上機母艦へ、そして終焉へ

エンガディンは、元々はイギリスとフランスを結ぶフェリーとして建造されました。ウィリアム・デニー・アンド・ブラザーズ社が建造し、1911年9月23日に進水。スイスの地名にちなんで名付けられ、1912年には竣工しています。しかし、その運命は平和な航路の運行にとどまりませんでした。

第一次世界大戦勃発の影が忍び寄る中、1914年、エンガディンは姉妹船のリヴィエラと共にイギリス海軍に買収されます。水上機母艦への改造が施され、ショート184水上機4機を搭載できるようになりました。これにより、エンガディンは空からの戦力投射能力を獲得し、新たな役割を担うこととなります。

エンガディンは、大戦において重要な役割を果たしました。1914年12月25日には、搭載機によるクックスハーフェンの襲撃作戦に参加。その後も様々な作戦に投入され、その存在感は増していきます。中でも注目すべきは、1916年のユトランド沖海戦での活躍です。エンガディンの水上機は、ドイツ帝国艦隊の偵察に成功しました。これは、空気より重い航空機による敵艦隊偵察の史上初の事例であり、エンガディンの貢献が歴史に刻まれる瞬間となりました。海戦後には、大破した装甲巡洋艦ウォーリアの乗員救助と曳航という、人道的な側面でも重要な役割を果たしています。大戦後半は地中海で活動し、その存在感は終戦まで続きます。

大戦終結後、エンガディンは1919年12月に元の所有者であるサウス・イースタン・アンド・チャタム・レイルウェイ社に返還されました。しかし、その航海はここで終わらなかったのです。1933年にはフィリピン・フェルン・ハーマノス社に売却され、「コレヒドール」と改名、マニラとセブ島を結ぶ航路に就航します。

しかし、コレヒドールとしての航海も長くは続きませんでした。第二次世界大戦が勃発し、1941年12月17日、避難民を乗せセブ島へ向かう途中、マニラ湾中央で日本の潜水艦伊124が敷設した機雷に接触、沈没してしまいます。乗船者たちはアメリカの機雷に触れたと思ったと伝えられています。現場に駆けつけたアメリカの魚雷艇によって約280人の乗客が救助されましたが、1200名以上の乗客のうち、多くの犠牲者が出ました。エンガディンの物語は、こうして悲劇的な幕切れを迎えることとなったのです。

エンガディンは、フェリー、水上機母艦、そして民間船と、その生涯において幾多の役割を担いました。第一次世界大戦における活躍、特にユトランド沖海戦での偵察成功は、航空機による海上作戦の有効性を示した歴史的な出来事として高く評価されています。しかし、その波乱に満ちた生涯は、第二次世界大戦での沈没によって、悲劇的な結末を迎えることとなりました。エンガディンの物語は、戦争と平和、そして時代の移り変わりを象徴する、ドラマチックな物語と言えるでしょう。

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