エンジェル (2007年の映画)

2007年に制作されたイギリス、ベルギー、フランスの共同製作によるドラマ映画『エンジェル』は、独特の映像美で知られるフランソワ・オゾンが監督・脚本を務めた作品です。英国の作家エリザベス・テイラーによる同名の長編小説を基に、一人の女性作家の波乱に満ちた生涯を描き出しています。

物語の舞台は20世紀初頭のイギリス。主人公エンジェル・デヴェレルは、田舎町で食料品店を営む母と静かに暮らす少女です。学校生活になじめず、内向的で夢見がちな彼女は、自宅に引きこもってひたすら小説を書き続け、それを出版元に送り続ける日々を送っていました。やがて、出版人のセオ・ギルブライトの目に留まり、彼女の作品が出版されることになります。通俗的な内容ながらも、エンジェルの小説は多くの読者を獲得し、彼女は一躍人気作家となります。

しかし、批評家からはその作品の芸術性が低いとして厳しい評価を受けます。そんな中で、エンジェルは放蕩な生活を送る貴族の青年、エスメ・ハウ＝ネヴィンソンに出会い、激しい恋に落ちます。エスメは、少なからずエンジェルの財産目当てという側面もありましたが、二人は結婚します。エスメの妹であるノラは、世間知らずで危なっかしいエンジェルの後見人のように、何かと彼女の面倒を見ることになります。

第一次世界大戦が勃発すると、エスメは兵士として戦地へ赴きます。負傷して帰還したエスメは、精神的に深い傷を負い、かつての輝きを失って廃人のような日々を送るようになります。そしてついに、自らの命を絶ってしまいます。エスメの死後、エンジェルは夫に愛人がいたという衝撃的な事実を知り、大きな苦しみを抱えることになります。

時代が進むにつれて、エンジェルの作品は流行から取り残され、かつてのような人気はなくなっていきます。彼女は、自身の成功の象徴として購入した豪華な屋敷「パラダイス」で、孤独な晩年を送り、やがて息を引き取ります。原作小説ではエスメが湖でボートから転落して死亡する設定ですが、映画版では屋敷内で首を吊るという、より閉鎖的で絶望的な死として描かれています。

作品に登場する、主人公エンジェルが強く憧れる壮麗な邸宅「パラダイス」は、1863年に建てられたイギリス・サマセット州にある実在の館ティンツフィールドがモデルとなっています。撮影の一部もこの場所で行われ、映画の視覚的な魅力を高める要素の一つとなっています。

本作に対する評価は分かれています。映画批評サイトRotten Tomatoesでは、22件のレビューのうち肯定的な評価は半数にとどまり、平均点は10点満点中5.07点と厳しい評価を受けました。批評家の総意としては、「時代遅れのメロドラマ、社会風刺、豪華な美術が見事に混ざり合っているが、決して傑作とは言えない」と評されています。一方、フランスのメディアからの評価は比較的良好で、アロシネによると24のメディアの平均点は5点満点中3.8点となっています。全体として、豪華な美術と衣装、そして主演ロモーラ・ガライの演技は評価される一方で、物語全体の構成やテーマの掘り下げについては賛否両論がある作品と言えるでしょう。

フランソワ・オゾン監督が描く、夢と現実、愛と孤独、そして時代の波に翻弄される一人の女性の人生を、絢爛たる映像美と共に味わえる作品です。

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