エンマグモ科

エンマグモ科 Segestriidae

エンマグモ科は、クモ目に含まれる一群のクモで、主に樹皮の下や地中、岩の隙間などに管状の巣穴を構築して生活しています。日本にはミヤグモが比較的広く分布していますが、その隠れた生活様式から、一般の目に触れることは稀です。

特徴

この科のクモは、中型までの大きさで、体は全体的に縦長です。多くの種が褐色から黒っぽい地味な体色をしています。

頭胸部は細長く、背側にある背甲と腹側の胸板は、歩脚の付け根部分でキチン質の板や膜によって連結されています。眼は全部で6個あり、その配置が特徴的です。両側の眼は前後に2つずつ並び、中央の眼は左右に2つが接近しています。この配置は、前方中央にある前中眼が失われているために生じます。

顎はやや長めで、獲物を捕らえる牙は顎に比べて短めです。

歩脚は比較的頑丈で、多くの棘が備わっています。最も際立った特徴の一つは、その配置にあります。前方の三対の脚が進行方向（前方）を向き、第四脚だけが後方を向いています。この配置だけを見ると、カニグモ科などに見られるような横方向の動きに適したように思われますが、エンマグモ科のクモは体が縦長であり、主に前後方向に移動します。雌の触肢には爪があります。

腹部は楕円形など、外見上特に変わった特徴はありません。腹部の基部近くには、一対の書肺の開口部（気門）がありますが、同時に一対の気管の開口部も持っています。書肺は2〜3枚の肺葉から構成されています。

腹部の後端には、3対の糸疣（いとぼ）と、その間に位置する間突起があります。

雄の触肢にある交接器（触肢器官）は比較的単純な構造で、原始的なクモであるトタテグモ科のものと似ています。雌の生殖孔には、複雑な外雌器は発達せず、交尾嚢を持ち、受精嚢は一つだけ独立しています。

生態

エンマグモ科のクモは、樹皮下、地面、岩の隙間などに強固な糸で編まれた管状の住居を構築し、その内部でほとんどの時間を過ごします。巣の入り口は基質の表面に開いており、そこから周囲に放射状に張り巡らされた「受信糸」が、獲物の接近を感知するためのセンサーの役割を果たします。

夜になると、クモは巣穴の入り口付近に姿を現します。受信糸に獲物が触れると、クモは素早く巣穴から飛び出して獲物に襲いかかり、噛みついて捕らえます。

繁殖期には、雄が雌の巣穴を訪れます。雄は受信糸を独特の方法で振動させ、雌に求愛の合図を送ります。交尾の際は、雄は雌の腹部前端の細くなった部分を顎でしっかりと掴み、両方の触肢器官を同時に雌の生殖孔に挿入するという珍しい行動をとります。雌は自分の巣の中で卵を包んだ卵嚢を作り、卵が孵化して幼生が現れた後も、しばらくの間、母子で巣穴を共有して生活します。

利害

人間との直接的な利害関係は特に知られていません。

分類と分布

エンマグモ科は、世界の熱帯から暖温帯にかけて広く分布しており、現在までに3属100種以上が確認されています。その大部分（約8割）はミヤグモ属（Ariadna）に属しています。

日本からは2属5種が記録されています。ミヤグモ属のミヤグモ（Ariadna segmentata）は各地で普通に見られますが、シマミヤグモ（Ariadna insulicola）は主に海岸地域で発見されます。他にエンマグモ属（Segestria）の種も知られています。ミヤグモ属には腹部に目立つ斑紋がないのに対し、エンマグモ属の種は腹部の背面に斑紋を持つため、外見で区別することが可能です。いずれの種も巣穴に潜んであまり外に出ないため、人目に触れる機会は少ないです。

日本産の種は以下の通りです。

ミヤグモ属 (Ariadna):
ミヤグモ
コミヤグモ
シマミヤグモ
エンマグモ属 (Segestria):
コマツエンマグモ
* ツクシエンマグモ

より詳細な属や種については、専門的な文献を参照してください。

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