エヴァンス・ギャンビット

エヴァンス・ギャンビット (Evans Gambit)

エヴァンス・ギャンビットは、チェスにおいて用いられる代表的なオープニングの一つです。特に 1. e4 e5 2. Nf3 Nc6 3. Bc4 Bc5 という、イタリアンゲームの中でも頻繁に現れる ジオッコ・ピアノ の局面から派生します。ここで白番が 4. b4 と指す手こそが、このオープニングの核心となる一着です。これは、イギリスのチェスプレーヤー、ウィリアム・デーヴィス・エヴァンスによって19世紀半ばに考案されました。

ギャンビットの意図

白が4. b4とポーンを犠牲にする目的は、単に駒を損することではありません。この一手は、黒の c5にいるビショップ を移動させ、その後の白の急速な展開を可能にするための布石です。もし黒がこのポーンを受け入れた場合、白は通常 c3 と指し、次に d4 とポーンを進めて盤面中央（センター）を素早く制圧することを目指します。

これにより、白はキングサイド側への攻撃ラインを開き、特に a3-f8 や b3-f7 といった対角線を利用した攻め筋を構築します。また、黒がキングサイドにキャスリングした場合、その安全性を脅かす可能性も生まれます。ポーンを一時的に手放すことで得られる、手数や主導権といった代償が、このギャンビットの魅力であり、その後の戦術的な局面の深さへと繋がります。

エヴァンス・ギャンビット・アクセプテッド

黒が白のギャンビットを受け入れ、4. ...Bxb4 と指した場合、これは エヴァンス・ギャンビット・アクセプテッド と呼ばれる変化に進みます。白は次に 5. c3 と指し、黒のビショップに再度圧力をかけます。黒は通常、ビショップを安全なマスに移動させます。主な応手としては 5. ...Bc5 が挙げられます。

以降、ゲームは白がセンターを掌握すべく 6. d4 と進めます。黒は通常 6. ...ed とポーン交換に応じ、白はキングの安全化と展開を進めるために 7. 0-0 とキャスリングします。ここで黒が最も一般的な指し手である 7. ...d6 と応じた後、白が 8. cd とセンターのポーン交換を完了させると、黒のビショップは 8. ...Bb6 と下がることが多いです。

ここから 9. Nc3 Bg4 と続き、白は 10. Bb5 と黒のナイトをピンします。この局面で黒が指す 10. ...Kf8! は、巧妙な手として知られており、キングをピンから逃れさせ、その後の展開を安定させます。その後の変化の一例として、11. Be3 Nge7 12. a4 a5 13. Bc4 Bh5 といった手順が挙げられます。この主要ラインは、白が強力な攻撃を展開する一方で、黒も的確な防御によってこれを凌ごうとする、非常にスリリングな展開となります。

5. ...Ba5 も、黒にとって有力な代替手段として研究されています。
7. cd に対して、黒は 7. ...Bb4+ とチェックを入れることも可能です。
7. ...d3 のように、白のポーンを進ませないようにする手は、黒が危険な局面を迎える可能性があり、一般には推奨されません。
7. ...Bb6 と指す手も、8. cd d6 と進むことで、先述の主要ラインと手順前後で合流する変化です。

その他の変化

エヴァンス・ギャンビットに対して、黒がb4のポーンを受け入れない、あるいは別の方法で受け入れる変化も存在します。

4. ...Nxb4 とナイトでポーンを取る手も考えられますが、その後の 5. c3 Nc6 と進むと、結局エヴァンス・ギャンビット・アクセプテッドの主要な局面とほとんど同じ形に移行します。
4. ...d5 と指して、白の意図するセンター支配を真っ向から否定する手も存在します。これには 5. ed Nxb4 6. 0-0 Nf6 7. Nxe5 Nbxd5 といった展開が考えられます。
* ポーンを全く取らずに 4. ...Bb6 とビショップを下げる手は、エヴァンス・ギャンビット・デクラインド と呼ばれます。この場合、白はポーンを犠牲にせずに、通常は 5. a4 a6 6. Nc3 Nf6 のように駒を展開していくことになります。この変化では、ギャンビット特有の激しい戦術的な戦いになりにくい傾向があります。

エヴァンス・ギャンビットは、白番にとってゲーム序盤から主導権を握り、戦術的な駆け引きを挑むための強力なツールとなり得ます。その複雑でエキサイティングな変化は、多くのチェスプレイヤーを魅了し続けています。

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