オカルト (映画)

オカルト：神がもたらした狂騒曲

2009年、日本の映画シーンに衝撃を与えたホラー・スリラー映画『オカルト』。白石晃士監督が、監督・脚本・撮影・編集だけでなく、自らも俳優として出演した異色の作品です。キャッチコピーである「見てはいけない、地獄の映画」は、決して大げさな表現ではありません。

本作は、一見するとありふれた通り魔事件の調査から始まります。映像制作会社のディレクターである白石晃士は、事件の唯一の生存者である江野祥平と出会います。江野は事件にまつわる不可解な体験を語り始め、白石は次第にその奇妙な事件の深淵へと引きずり込まれていきます。

白石監督は、心霊ビデオ風の短編作品を経て、『ノロイ』(2005年)でPOV(一人称視点)とモキュメンタリーの手法に挑戦しました。しかし、『ノロイ』では、リアリティを追求するあまり、フィクションとしての面白さを表現することに苦悩したといいます。

本作『オカルト』では、その反省を活かし、「ドキュメンタリーを模したフィクション」として、徹底的にフェイクを追求することで、観客に強烈なインパクトを与えようとしました。低予算ながらも、監督の自由な発想が存分に生かされた作品となっています。

映画の舞台となるのは、2000年代後半の日本。ネットカフェ難民、派遣労働、通り魔事件といった、当時の社会問題がリアルに反映されています。特に、江野祥平の置かれた状況や行動様式は、白石監督自身の若き日の体験が投影されていると言われています。

2008年、日本各地で発生した通り魔事件は、社会的な問題として大きな注目を集めていました。特に、秋葉原通り魔事件の発生は、本作の脚本完成間近の時期と重なり、白石監督は「脚本が現実になった」と驚愕したと語っています。しかし、これは社会派作品を目指したわけではなく、特にラストシーンについては、「モキュメンタリーらしい、笑い飛ばせる作品にしたかった」と監督は述べています。

脚本は、主演の宇野祥平に当て書きされており、劇中の人物名「江野祥平」は、宇野祥平の氏名から採られています。また、渋谷の空を覆いつくすカラスの大群のシーンは、CGではなく、カラスを呼ぶ芸を持つChim↑Pomの協力を得て撮影された実写です。

白石監督作品にはしばしば登場する「霊体ミミズ」や、「異界と神の存在」といったモチーフも、本作において重要な役割を果たしています。また、後年の作品『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!最終章』では、本作の江野祥平が登場し、白石監督演じる田代正嗣と交流するシーンがあり、作品世界観のつながりを感じさせます。

物語は、2005年の通り魔事件から始まります。犯人の松木は海に飛び込み、行方不明となります。それから3年後、白石は事件の生存者である江野と出会い、彼の身に起こる不思議な出来事を記録していきます。

江野は「神からの啓示」に従い、大規模な自爆テロ計画を実行しようとします。白石は一度は江野を止めようとしますが、彼自身の身に起こる異変や、江野の強い決意に翻弄され、結局は協力することになります。

計画を実行した江野は死亡し、白石は共犯として逮捕されます。21年後、釈放された白石は、再び不可解な出来事に遭遇します。そこには、江野が残した映像が記録されており、それは想像を絶する光景を映し出していました。

登場人物たちは、それぞれ個性的な人物像で描かれています。ネットカフェ難民として生活する江野、冷静なようで徐々に狂気に染まっていく白石、そして事件の謎を握る様々な人物たち。彼らの行動と心理描写が、物語にリアリティと緊張感を与えます。

『オカルト』は、単なるホラー映画にとどまらず、社会への鋭い視線と、人間の狂気と神秘への探求が凝縮された、異質な作品と言えます。ラストシーンの衝撃と、その後も続く謎めいた余韻は、観る者の心を深く揺さぶることでしょう。

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