オスーナ公爵夫妻とその子供たち

『オスーナ公爵夫妻とその子供たち』

フランシスコ・デ・ゴヤの作品である『オスーナ公爵夫妻とその子供たち』は、1787年から1788年にかけて制作された肖像画です。この絵はスペインのマドリードにあるプラド美術館に収蔵されており、第9代オスーナ公爵ペドロ・テレス＝ヒロンと彼の家族が描かれています。オスーナ公爵は当時の有力な貴族の一人であり、ゴヤの初期の後援者でもありました。

制作の背景

第9代オスーナ公爵ペドロ・テレス＝ヒロンは、1755年に生まれました。彼は8代オスーナ公爵の次男であり、父の死去により公爵の地位を引き継ぎました。彼はまた、ベナベンテ公爵家の唯一の相続人であるマリア・ホセファ・ピメンテルと結婚し、数人の子供をもうけましたが、成人したのはわずか5人でした。

ゴヤとオスーナ公爵の関係は非常に良好で、彼はオスーナ公爵と公爵夫人の肖像画を何点も制作しました。特に、1785年にはこの夫妻の肖像を手がけ、1788年には公爵の子供たちの肖像画も依頼されました。この依頼には残念ながらいくつかの作品が失われています。

描かれた人物

この肖像画には、オスーナ公爵と公爵夫人をはじめ、4人の子供たちが描かれています。作品の中央にはオスーナ公爵が立っており、彼の服装は近衛兵連隊の軍服です。公爵は亡き父への哀悼の意を表明しています。

公爵夫人はその隣に座り、フランス製のドレスを着ています。息子たちと娘たちもそれぞれお揃いの衣装で描かれ、家族の一体感が表現されています。具体的には、左端に立つ少年はフランシスコ・デ・ボルハ、母親の足元にはペドロ・デ・アルカンタラが座り、その玩具の馬車を引いています。画面中央付近にはホセファ・マヌエラ、そして右側に寄りかかっている最年少のホアキナがいます。

オスーナ公爵はホセファ・マヌエラの手を自身の手で優しく包み、特にホアキナに対しては母親が保護者のように肩に手を置く描写が見られ、家族間の温かい親密さが伝わってきます。また、画面の手前には二匹の小型犬も描かれ、これが更に表情豊かな一枚としています。

作品の特徴

『オスーナ公爵夫妻とその子供たち』は、ゴヤによる家族の肖像画として特筆すべき一枚です。この作品は、パルマにあるマンニャーニ・ロッカ財団所蔵の『王子ドン・ルイス・デ・ボルボンとその家族の肖像』に次いで制作されたものですが、初期の宮廷肖像画の形式とは異なり、家族間の親密さが強調されています。特に子供たちとその親の関係性や愛情が、より柔らかいタッチで描写されていることが特徴です。

この肖像画は、スペインではあまり一般的でない家族の肖像を描いた作品であり、ゴヤがフランドルやイギリス絵画からインスパイアを受けていることも指摘されています。彼は色調を繊細に扱い、布地やレースのディテールを巧みに表現しています。作品全体的にみられる灰色がかった色と緑色の使い方は、温かみを与え、鑑賞者に家族の親密さを強く伝えています。

来歴

この肖像画は、1896年にオスーナ公爵家に所有されていましたが、1897年にはプラド美術館に寄贈されました。このように、歴史的価値と芸術的価値を併せ持った名作として、多くの人々に愛され続けています。

もう一度検索