オツベルと象

『オツベルと象』

宮沢賢治の短編童話『オツベルと象』は、1926年に彼の作品の中でも貴重な生前発表作品として文献『月曜』に掲載されました。この物語は、ある牛飼いの語りを通じて、強欲な地主・オツベルと彼に騙される白い象の悲劇を描いたものです。

あらすじ

物語の発端は、大地主のオツベルの元に大きな白い象が現れることから始まります。オツベルは巧妙な言葉を用いて、象を騙し、自分のものにしてしまいます。彼は象に重労働を課し、最初は楽しんでいた白象も徐々に辛い状況に追いやられていきます。象は食べ物を減らされ、力を失い始めますが、月の存在に助けられ、仲間の象たちに助けを求める手紙を書く決心をします。手紙を受け取った仲間たちはオツベルに立ち向かうため、邸宅へと押しかけ、最終的にはオツベルはその勢いで潰されてしまいます。

登場人物

• - オツベル: この物語の主役であり、強欲な大地主です。象を巧妙に騙し、自分の財産として使い果たすが、最後には象たちに襲われてしまいます。
• - 白象: 森から来た美しい白い象で、最初は無邪気にオツベルのもとで働いていますが、次第にその運命が変わっていきます。
• - 月: 白象が月毎に会話をする存在。象の助言者として重要な役割を果たします。
• - 赤衣の童子: 白象の手紙を仲間に届ける謎のキャラクター。
• - 牛飼い: 物語の語り手としての役割を担います。
• - 百姓: オツベルの家で働いている農民たちで、象が押し寄せたとき、オツベルを見捨てて逃げ出します。
• - 議長の象: 白象の群れを率いる指導者で、仲間たちを奮い立たせ、オツベルに立ち向かいます。
• - オツベルの犬: 豊かな生活を送るオツベルに飼われる犬ですが、象たちと出会うと恐怖で気を失います。

解説

『オツベルと象』は、東南アジアを背景に、象や沙羅双樹が登場することで、物語の舞台を想像させます。オツベルの強欲さが象の善意を傷つけ、その結果としての悲劇が描かれています。しかし、白象が勝利した後も、彼は喜びを見せず、オツベルの冷酷さを改心させられなかった悲しみを感じています。この作品は、単なる寓話に留まらず、人間の欲望や社会の冷たさへの警鐘とも受け取れます。

なお、この作品はかつて「オッペルと象」というタイトルで知られていましたが、後に誤りが訂正され、『月曜』という雑誌においての原稿が確認されたことで、正式名が定まりました。また、物語の最後には一部の文が不明であることが記録されているため、永続的な解釈の余地があります。賢治の豊かな想像力が形作ったこの作品は、今もなお多くの読者に影響を与え続けています。

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