オニール・シリンダー

オニール・シリンダーとは

オニール・シリンダーは、アメリカの物理学者ジェラード・K・オニールが1976年の著書『The High Frontier: Human Colonies in Space』で提唱した、宇宙空間における大規模な居住施設構想です。この構想は、月や小惑星から採掘した資源を活用し、21世紀における人類の宇宙進出を可能にすることを目指しています。

構造

オニール・シリンダーは、2つの巨大な円筒（シリンダー）を組み合わせた構造を持ちます。各シリンダーは、直径約8km、長さ約32kmという巨大なサイズであり、互いに逆方向に回転することでジャイロ効果を打ち消し、太陽方向への安定した姿勢を維持します。シリンダー内部には、回転によって生じる遠心力を利用して人工重力が作り出され、人間が生活できる環境が提供されます。

誕生の背景

オニールは、プリンストン大学で物理学を教えていた際、学生たちに「宇宙空間における巨大建造物の設計」という課題を与えました。この課題を通して、宇宙植民の可能性を示唆するいくつかの設計案が生まれ、それがオニール・シリンダー構想の原点となりました。

1974年には、オニールは自身のアイデアを『フィジックス・トゥデイ』誌に発表し、世界にその存在を知らしめました。また、1954年にはドイツ人科学者ヘルマン・オーベルトが、著書の中で巨大なシリンダー型宇宙コロニーについて言及しており、オニールの構想にも影響を与えたと考えられています。

オニールの「島」

オニールは、3つの異なる設計案を提示し、それぞれを「島」と名付けました。

島1号: 赤道地域に居住区を持つ球体で、周囲から約512mの距離を置いて回転します。後に、NASAのエイムズ研究センターが島1号を基に「スタンフォード・トーラス」を開発しました。これは直径約490mのドーナツ型です。
島2号: 直径約1,600mの球体です。
島3号: これが一般的に「オニール・シリンダー」として知られる設計です。2つの逆回転するシリンダーで構成され、それぞれが直径約8km、長さ約32kmまで拡張可能です。各シリンダーは、3つの透明な窓と3つの居住可能な「陸地」が長辺に沿って交互に配置されています。さらに、外周には半径16kmの農業用リングが回転しています。居住区の中央には工業区画があり、必要に応じて重力を最小化できます。

これらの居住区は、地球からの物資輸送費を抑えるため、月からの資源を活用して建設されることを想定しています。

設計の詳細

人工重力

シリンダーの回転により、内側面に人工重力が発生します。オニールの計算によれば、地球と同程度の重力をシミュレートするには、約28回転/時が必要です。この速度であれば、人間の内耳への影響は少なく、酔いを感じることはほぼありません。ただし、物を落とした際には、コリオリ力により若干の偏向が生じます。

大気と放射線

居住区内は、地球の海面気圧の約20%の酸素分圧と、窒素を加えて地球の気圧の約半分に調整されます。これにより、ガス消費を抑え、構造物の強度を低減できます。シリンダーの大きさにより、空気と外壁が宇宙線を遮断する効果があります。また、内部の気象制御システムにより、大気の組成や太陽光の反射量を調整できます。

太陽光

巨大な鏡が窓を覆うように配置されており、太陽光をシリンダー内に反射します。鏡の角度を調整することで、昼夜の変化を再現できます。また、太陽光の角度を自然に変化させることも可能です。シリンダーの回転により、太陽像も回転して見える可能性があります。ただし、偏光した光は、ミツバチの受粉活動に影響を与える可能性が指摘されています。

窓は多数の部品で構成され、アルミニウムやスチールの窓枠が気圧の負担を軽減します。隕石によって窓が破損した場合でも、居住区の大きさから考えて、深刻な事態には至らないとされています。

姿勢制御

居住区と鏡は、常に太陽を向いている必要があります。オニールは、ロケット推進ではなく、シリンダーの回転を利用して姿勢を制御する方法を考案しました。2つのシリンダーをリアクションホイールとして利用し、相互に回転させることで、太陽を捉え続けます。この微細な歳差運動により、コロニーは常に太陽を向いた状態を維持します。

フィクションにおけるオニール・シリンダー

オニール・シリンダーは、そのユニークな形状と可能性から、多くのフィクション作品に登場しています。

『宇宙のランデヴー』: オニール・シリンダー型の宇宙船が登場します。
『バビロン5』: 架空のオニール・シリンダーが舞台となります。
『2312』: 小惑星「テラリア」にオニール・シリンダーが登場します。
『機動戦士ガンダム』: オニール・シリンダー型のコロニーが舞台のアニメ作品です。
『ポリスノーツ』『VANQUISH』『Mass Effect シリーズ』: ビデオゲームに登場します。
『インターステラー』: 映画に登場します。