オマキザル属

オマキザル属 (Cebus)

オマキザル属（Cebus）は、哺乳綱霊長目オマキザル科に分類される一群のサルです。新世界ザルの一員であり、その知性と行動の多様性から広く知られています。

形態的特徴

本属に属するサルは比較的小型から中型で、成熟個体の体重はおおよそ3〜4キログラムです。頭から胴までの長さは約40センチメートル、尾も同じく約40センチメートル程度の長さになります。雌雄の間で体の大きさに大きな違いは見られません。体の色は種によって異なり、例えばノドジロオマキザルは白と黒の対照的な体色をしていますが、フサオマキザルなど多くの種は茶色やそれに近い色合いを基調としています。

尾は、バランスをとったり姿勢を維持したりするために巧みに使われますが、同じ新世界ザルであるクモザル亜科の動物ほど物を掴む能力に特化しているわけではありません。物を操作する能力は限定的で、主に樹上での移動や採食中の安定を保つ役割を果たします。クモザル亜科に見られるような、尾の先端にある把握を助けるための皮膚の隆起（尾紋）は持っていません。

分類

属名「Cebus」は、古代ギリシャ語で「サル」を意味する「kebos」に由来しています。

かつては、現在フサオマキザル属（Sapajus）として分類されている種も本属に含まれていましたが、分子生物学的な研究などに基づき、現在は主に滑らかな毛並みを持つ種がオマキザル属（Cebus）として分けられています。

日本モンキーセンター霊長類和名リスト（2018年版）に基づくと、以下のような種が含まれます。

Cebus aequatorialis エクアドルシロガオオマキザル Ecuadorian white-fronted capuchin
Cebus albifrons シロガオオマキザル White-fronted capuchin
Cebus brunneus ブラウンナキガオオマキザル Brown weeper capuchin
Cebus capucinus ノドジロオマキザル Cesar white-fronted capuchin
Cebus castaneus クリイロナキガオオマキザル Guianan weeper capuchin
Cebus cesarae セザールシロガオオマキザル Ecuadorian white-fronted capuchin
Cebus cuscinus ムクゲオマキザル Shock-headed capuchin
Cebus imitator チュウベイノドジロオマキザル Panamanian white-throated capuchin
Cebus kaapori カアポールオマキザル Ka'apor capuchin
Cebus leucocephalus ペリハシロガオオマキザル Sierra de Perijá white-fronted capuchin
Cebus malitiosus サンタマルタシロガオオマキザル Ecuadorian white-fronted capuchin
Cebus olivaceus ナキガオオマキザル Weeper capuchin
Cebus trinitatis トリニダードシロガオオマキザル Trinidad white-fronted capuchin
Cebus unicolor スピックスシロガオオマキザル Spix's white-fronted capuchin
Cebus versicolor コロンビアシロガオオマキザル Colombia white-fronted capuchin
Cebus yuracus アンデスシロガオオマキザル Andean white-fronted capuchin

生態

オマキザル属のサルは昼行性で、生活のほとんどを樹上で送る樹上性の動物です。食性は雑食性で、主に果物を食べますが、昆虫なども捕食します。

通常、10頭から20頭程度の複雄複雌の混合群を形成して生活します。他の群れとは縄張りなどを巡って敵対することが多いですが、群れ内部での個体間の関係は、ある程度の優劣関係は存在しつつも、比較的寛容であると観察されています。

特筆すべきはその高い知能と好奇心です。野生環境で道具を使うことが確認されている数少ない哺乳類の一つであり、類人猿以外では最も有名な道具使用の例として挙げられます。例えば、硬いナッツを石の上で叩き割ったり、木の実同士をぶつけ合ったりして食べます。大きな昆虫を捕らえた際には、地面などに叩きつけて動かなくさせてから食べる行動も見られます。実験環境においても、棒を使って餌を引き寄せたり、箱を積み重ねて高い場所にあるものに到達したりするなど、複雑な問題を解決する能力を示します。

また、表情が豊かで発達したコミュニケーション能力を持つことも知られています。類人猿以外では珍しく、「絵描き行動」を示す個体が報告されたこともあります。一方、フサオマキザルなどの小型の種は、アマゾンオオワシのような大型の猛禽類にとっての捕食対象となることがあります。

人間との関係

オマキザル属のサルは、霊長類の中でも非常に知能が高く、多様な認知能力を示すことから、チンパンジーなどの大型類人猿と並んで、心理学や行動科学の分野における重要な研究対象となっています。特にフサオマキザルは、視覚的な認知、道具使用といった物理的な知性の研究から、協力行動や不公平に対する反応といった社会的な知性の研究まで、幅広いテーマで実験が行われています。

その知性と器用さは、人間の生活を助けるためにも活用されています。特にフサオマキザルは、身体的な障害を持つ人々の手助けをする「介護ザル」として訓練され、活躍している事例が知られています。

文学作品との関連では、マリーナ・チャップマンの著書『失われた名前』に、幼少期に森でサルと共に暮らしたというエピソードが描かれていますが、彼女が共に過ごしたとされるのは、おそらくシロガオオマキザルの一種だったと考えられています。

高い知能と社会性を持つオマキザルは、霊長類の進化や認知能力の研究において、今後も重要な役割を果たしていくでしょう。

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