オルガンとオーケストラのための「響」

オルガンとオーケストラのための『響』

「オルガンとオーケストラのための『響』」は、日本の作曲家、芥川也寸志（あくたがわ やすし）が1986年に作曲した、独奏オルガンと管弦楽のための協奏的作品です。東京・赤坂に開館したサントリーホールの落成を記念して委嘱され、同ホールのシンボルともいえるパイプオルガンをフィーチャーした楽曲として知られています。

作曲の背景

この作品が生まれた背景には、芥川也寸志とサントリー株式会社との長年にわたる深い繋がりがありました。

芥川は1968年からTBSラジオで放送されていた人気番組『百万人の音楽』でパーソナリティーを務めていましたが、この番組はサントリーの一社提供でした。
また、彼が自ら無給の指揮者として育成を続け、情熱を注いだ新交響楽団が行った「日本の交響楽作品展」が、サントリーが音楽文化の振興に貢献した団体・個人を顕彰する「鳥居音楽賞」に選ばれるなど、多岐にわたる協力関係が存在していました。

このような関係の中、かねてより都内にコンサート専用の優れた音楽ホールの必要性を強く訴えていた芥川のもとに、サントリーが東京・赤坂に新たなコンサートホールの建設を計画しているという話が持ち上がります。この構想に強く賛同した芥川は、当時のサントリー社長であった佐治敬三（さじ けいぞう）氏と直接対話し、ホールの建設計画推進に積極的に関わりました。佐治氏と共に建設中の現場を訪れ、熱心に議論を交わすなど、その実現に向けた芥川の献身的な貢献は大きなものでした。

そして1986年、ついに「サントリーホール」が開場の日を迎えます。その落成記念式典を飾る記念演奏曲の作曲が、ホールの誕生に尽力した芥川に委嘱されることとなりました。完成したホールの舞台に設置された、壮麗なパイプオルガンを目の当たりにした芥川は、その楽器の持つ可能性に深く魅せられ、これを独奏楽器とするオーケストラとの協奏曲を作曲することを決意したのです。

作曲過程と作品内容

しかし、当時の芥川は他の多くの仕事も抱え、多忙を極めていました。このような状況で、全く新たな大規模作品を一から作曲することは困難を伴いました。そこで彼は、同時期に手掛けた他の作品にも見られた手法と同様、過去の自作を素材とした改作という形を採用します。

基となったのは、1967年に作曲されたオーケストラのための作品「オスティナータ・シンフォニカ」です。この既存の楽曲のオーケストレーションに、サントリーホールのパイプオルガンを駆使した独奏パートを新たに加え、全体の構成を再構築することで「響」は生み出されました。これは、限られた時間の中で委嘱に応えるための現実的な選択であると同時に、過去のアイディアに新たな息吹を与え、オルガンという強力な楽器との組み合わせによって新たな響きを探求する試みでもありました。

作品は、オルガンの堂々たる響きとオーケストラの色彩豊かなサウンドが対峙し、あるいは融合しながら展開されていく、エネルギッシュかつ重厚な音楽となっています。

初演

「オルガンとオーケストラのための『響』」は、サントリーホールの落成記念式典において華々しく初演されました。

日時: 1986年10月10日
場所: サントリーホール
指揮: ウォルフガング・サヴァリッシュ
オルガン独奏: 林佑子
* 管弦楽: NHK交響楽団

この初演は、新しいホールの誕生と、その象徴たるパイプオルガンの響き、そして日本の音楽界に貢献した芥川也寸志の功績を祝う歴史的な出来事となりました。作品は、委嘱の背景にあるストーリーと共に語り継がれ、サントリーホールの歴史にとって重要な一頁を飾るを飾る楽曲として位置づけられています。

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