オー!ダーリン

ビートルズの隠れた名曲「オー!ダーリン」：制作からレコーディング、そしてカバーまで

ビートルズの11作目のアルバム『アビイ・ロード』(1969年)に収録されている「オー!ダーリン」(Oh! Darling)は、ポール・マッカートニーが作詞作曲した楽曲です。レノン＝マッカートニー名義ながら、ポールが中心となって制作されたこの曲は、初期ビートルズを思わせるロックンロール調のナンバーで、アルバムの中では異彩を放つ存在感を示しています。

制作背景：50年代ロックへのオマージュ

1969年、ビートルズは『ゲット・バック』アルバム制作のため、ゲット・バック・セッションを開始。そのセッション初期、トゥイッケナム映画撮影所で行われたリハーサルで、「オー!ダーリン」は誕生しました。バンド初期のスタイルを彷彿とさせるこの曲は、メンバーからも高く評価されています。ジョージ・ハリスンは「コード進行が最高。いかにも1955年の曲っぽい」と語り、ジョン・レノンも「ポールの凄いやつ」と称賛しました。レノンは、自身のスタイルに近いとも感じていた一方で、最終的にポールが歌うことを決定しています。

楽曲は当初「Oh! Darling (I'll Never Do You No Harm)」というタイトルで構想され、スタジオ到着前のサウンドチェック中にポールがピアノで弾き語ったことが、完成への大きな一歩となりました。リハーサルはアップル・スタジオで行われ、この段階では、マッカートニーとレノンのツインボーカルで演奏されたバージョンも存在しています。興味深いことに、レノンのパートには「I'm free at last（やっと自由だ）」という歌詞が登場しますが、これは同時期にオノ・ヨーコの前夫との離婚が成立したことに関連していると考えられています。

熱のこもったレコーディング：完璧主義者の追求

レコーディングは1969年4月20日、EMIレコーディング・スタジオで行われました。プロデューサーにはクリス・トーマスが迎えられ、ハリスンのベース、スターのドラム、プレストンのオルガン、マッカートニーのピアノ、レノンのギター、そしてマッカートニーのリードボーカルがレコーディングされました。特にマッカートニーのボーカル・レコーディングは、並々ならぬ熱意が込められたものでした。彼は1日に1テイクのみを録音し、納得がいくまで前のテイクを消して録り直しを繰り返したといいます。「熱唱型の曲だから、少しでも生ぬるさを感じさせると全てが台無しになってしまう」という彼の言葉からも、その真剣さが伝わってきます。

レコーディング中、マッカートニーは「5年前ならこんなのあっという間に出来たのに」と発言したと、当時のエンジニアであるアラン・パーソンズは証言しています。これは、ビートルズの活動後期における制作における複雑さと、彼自身の高い要求の高さを示唆するエピソードと言えるでしょう。最終的に採用されたテイクは、マッカートニーの並外れた歌唱力と、バンドメンバーの演奏力の融合によって完成したものです。

様々な展開：CMソングからカバーまで

「オー!ダーリン」は、日本では日産サニーのCMソングとして使用され、広く大衆に知られる存在となりました。また、多くのアーティストによってカバーされており、その中にはロビン・ギブ、ジョージ・ベンソン、ヒューイ・ルイス、村上“ポンタ”秀一、B'zといった著名なミュージシャンたちが名を連ねています。

ロビン・ギブによるカバーは特に成功を収め、アメリカで最も売れた彼のシングルとなりました。こうしたカバー活動も、「オー!ダーリン」という楽曲が持つ普遍的な魅力と、時代を超えて愛される潜在能力の高さ を証明するものと言えるでしょう。

楽器とボーカル：クレジットをめぐる変化

楽曲のクレジットに関して、当初イアン・マクドナルドの著書では、ベースをハリスン、[ギター]]をレノンと記載されていましたが、2019年の『アビイ・ロード]』のブックレットでは、ベースをハリスン、[[ギターをレノンと記載が変更されています。この変更の理由は公式には明らかになっていませんが、レコーディングにおける役割の変化や、情報整理の過程での誤りなどが考えられます。

このように、「オー!ダーリン」は、制作からレコーディング、そして後の展開まで、様々な興味深いエピソードが詰まった、ビートルズの中でも特別な楽曲と言えるでしょう。その力強いサウンドと、ポール・マッカートニーの魂を込めたボーカルは、時代を超えてリスナーを魅了し続けています。

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