オーギュスタン・ピラミュ・ドゥ・カンドール

オーギュスタン・ピラミュ・ドゥ・カンドール：植物学の巨匠とその一族

オーギュスタン・ピラミュ・ドゥ・カンドール（1778年-1841年）は、スイス出身の植物学者であり、植物分類学に多大な貢献をした人物です。フランスの名家に生まれ、幼少期から文学などに才能を示した彼は、のちに植物学の道へと進みます。

彼の研究は、現代の進化生物学の礎を築いたチャールズ・ダーウィンにも影響を与えました。カンドールは、異なる種が類似した環境下で同様の性質を発達させる「相似」という現象をいち早く認識し、自然淘汰の考え方の端緒となる「自然の戦争」の概念を示唆しました。また、植物の葉の動きが日周リズムを示すことから、植物内部に生物時計が存在するという着想も持ち、植物生理学の先駆者としての側面も持ち合わせていました。

彼は、カール・フォン・リンネの人工分類法とは異なる、植物の自然な特徴に基づいた分類体系を提唱しました。この思想は、彼が編集に関わったフランスの植物誌『Flore française』の改訂版にも反映されており、植物分類学の発展に大きな影響を与えました。

カンドールの代表的な著作として、多肉植物に関する『Plantarum historia succulentarum』（1799-1803年）や、植物の薬効を研究した『Essai sur les propriétés médicales des plantes』（1804年）などが挙げられます。しかし、彼の最も重要な業績は、植物界全体の分類体系を目指した大規模なプロジェクト『Regni vegetabillis systema naturale』と、その縮小版である『Prodromus Systematis Naturalis Regni Vegetabilis』（1824-1841年）でしょう。後者では、膨大な数の植物種を詳細に分類し、多くの植物分類学者に影響を与え続けました。

彼は、コレージュ・ド・フランスやモンペリエ大学、ジュネーヴ大学などで教鞭をとり、ジュネーヴ最初の植物園の設立にも尽力するなど、教育者としても活躍しました。

カンドールの功績は彼自身のみならず、その一族にも受け継がれていきます。彼の息子アルフォンス・ドゥ・カンドールは、比較形態学や植物地理学の分野で顕著な業績をあげ、孫のカジミール・ピラミュ・ドゥ・カンドールは、祖父の未完の事業であった『Prodromus』の補遺や改訂を行い、その完成に大きく貢献しました。こうして、カンドール一族は3世代に渡り植物学研究を続け、植物学界に多大な貢献をしました。

彼らへの敬意を表し、植物の属名に Candollea や Candolleodendron が与えられ、植物分類学の専門誌は『Candollea』と名付けられています。

オーギュスタン・ピラミュ・ドゥ・カンドールは、単なる分類学者ではなく、進化論的思考の萌芽や、植物生理学の先駆的な研究など、多方面にわたる貢献によって、植物学史に大きな足跡を残した人物と言えるでしょう。彼の研究は、現代の植物学研究にも大きな影響を与え続けています。

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