オーストリアの国章

オーストリアの国章は、第一次世界大戦終結後、ナチス・ドイツによる併合（アンシュルス）という暗い時代を除き、オーストリア共和国の象徴として長く使用されてきました。かつてオーストリア＝ハンガリー帝国の国章として用いられ、ハプスブルク家の権威を象徴した双頭の鷲とは異なり、現在の国章は単頭の鷲を採用しています。この変更は、帝国の終焉と共和国の成立を明確に示すものでした。

鷲の胸には、赤白赤の三色帯で知られる現在のオーストリア国旗のデザインの起源となった、オーストリア大公国の盾が描かれています。この盾は、オーストリアの歴史とアイデンティティを象徴する重要な要素です。

鷲の両方の鉤爪は、それぞれ金の鎌と金のハンマーを握っています。この鎌とハンマーは、しばしば共産主義のシンボルとして誤解されますが、オーストリア国章におけるそれらの意味は異なります。制定当時、カール・レンナーはこれらを、オーストリア社会を構成する「三つの階級」―労働者、農民、ブルジョワジー―の統一と調和を表すものとして位置づけました。

鷲の頭部には、金の城壁冠が飾られています。城壁冠は、自治都市の象徴であり、独立と自由を意味します。鎌、ハンマー、城壁冠の三つの要素は、レンナーの構想において、異なる社会階級の協調と、新生オーストリアの統合された国家像を表現しています。

国章のデザインに特徴的なのは、鷲の両足につながれた千切れた鉄の鎖です。これはナチス・ドイツからの解放を象徴するもので、第二次世界大戦後に追加されました。この鎖は、オーストリアが経験した苦難と、自由を取り戻した喜びを想起させる、重要な視覚的要素となっています。

このように、オーストリアの国章は、単なる紋章ではなく、オーストリアの歴史、社会構造、そして独立への揺るぎない意志を凝縮した象徴と言えるでしょう。それぞれの要素が、オーストリアの複雑な歴史と、その国家としてのアイデンティティを深く反映しています。一見シンプルなデザインの中に、深い意味と歴史が込められていることが分かります。オーストリアの国章を見る際には、単なる絵柄としてではなく、歴史的背景や象徴的な意味を理解することで、より深くその意味を味わうことができるでしょう。

もう一度検索