オーストリアの憲法

オーストリアの憲法：多様な法源からなる特異な憲法体制

オーストリアの憲法は、単一の憲法典として法典化されておらず、極めてユニークな構成をしています。イギリスの憲法と同様に、不文憲法の側面も持ち合わせていますが、中核となるのは1920年10月1日に制定された「連邦憲法（Bundes-Verfassungsgesetz）」です。しかし、オーストリアの憲法を特徴づけるのは、その法源の多さであり、一説によれば1000以上もの法源から構成されていると言われています。

憲法の構成要素

オーストリアの憲法は、大きく分けて「形式的憲法」と「実質的憲法」の2つの要素から構成されています。

形式的憲法

形式的憲法とは、憲法として明示されているものを指します。これには、以下のものが含まれます。

連邦憲法（Bundes-Verfassungsgesetz）: オーストリア憲法の中核をなす憲法典です。
憲法法律（Verfassungsgesetz）: 連邦憲法と同等の地位を与えられた法律であり、憲法と明示されています。
憲法規定（Verfassungsbestimmung）: 単純な法律として制定されたものでありながら、憲法としての性質を持つと明示されているものです。
憲法の地位にある条約（Staatsvertrag mit Verfassungsrang）: 憲法と同等の効力を持つ条約です。
条約における憲法規定: 法律と同等の地位を持つ条約の中に含まれる憲法規定です。

実質的憲法

実質的憲法とは、「憲法法律」や「憲法規定」とは明示されていないものの、その内容が憲法としての性質を持つと解される通常の法律を指します。例えば、大統領選挙法、国民投票法、国民請願法などがこれに該当します。これらの法律は、形式的な憲法としての要件を満たしていませんが、実質的には憲法としての役割を果たしています。

連邦制と州憲法

オーストリアは連邦制国家であり、9つの連邦州はそれぞれ独自の国家としての性質を有しています。そのため、各州は独自の州憲法を持っており、さらに州レベルでの「憲法法律」や「憲法規定」も存在します。これらの州憲法や関連法規も、オーストリア全体の憲法秩序の一部を構成していると考えられています。

まとめ

オーストリアの憲法は、単一の憲法典に集約されない、極めて分散的な性格を持っています。連邦憲法を核としつつ、多数の憲法法律、憲法規定、条約、そして州憲法が複雑に絡み合い、独自の憲法体制を形成しています。この複雑さこそが、オーストリア憲法の大きな特徴と言えるでしょう。

参考文献

渡邊亙『各国憲法集（3）オーストリア憲法』国立国会図書館調査及び立法考査局〈基本情報シリーズ〉、2012年3月30日。
* 槇裕輔「オーストリア共和国における憲法とその法源 : 連邦憲法の法源とその歴史的一面」『法政論叢』第43巻第2号、日本法政学会、2007年、145-155頁。

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