オートエスノグラフィー

オートエスノグラフィーの概要

オートエスノグラフィー（autoethnography）は、自身の経験を深く考察し、文化的や社会的な文脈で理解を広げる質的研究の方法の一種です。この手法では、著者が自己の経験を通じて、自らの物語を社会的、文化的な意味に結びつけることを目的としています。日本においては自己エスノグラフィーや自伝的民族誌と呼ばれることもあり、多くの学問分野で利用されています。

多様な学問分野での活用

オートエスノグラフィーは、コミュニケーション研究、パフォーマンス研究、教育、英文学、人類学、ソーシャルワーク、社会学、歴史、心理学、マーケティング、ビジネスや教育行政、芸術教育、さらには理学療法といった様々な学問分野で、自己探求的な著作形式として用いられています。特に、研究者が自身の文化や経験に基づいて、社会の信念や実践を探求し、それに対する批評を行うことで、関与する人々の視点を尊重しながら成り立っています。

定義の進化

オートエスノグラフィーの概念は時代とともに進化しており、初期には研究者が自身が属する文化についての洞察を提供するための方法として認識されていました。1970年代には、内側の文化についての研究を指して「内部者のエスノグラフィー」として狭義に定義されていました。著名な研究者であるCarolyn Ellisは、オートエスノグラフィーを「自己の経験を文化的、社会的、政治的な文脈に結びつける研究」として定義していますが、用語の解釈に対する意見は多様で、厳密な定義を確立することは容易でありません。

歴史的な背景

1970年代

オートエスノグラフィーという用語は、文化のメンバーが自身の文化についての洞察を提供することに触れるために使われ始めました。この時期の重要な人物には、ロサンゼルス大学の人類学教授ウォルター・ゴールドシュミットがいます。彼は、すべてのオートエスノグラフィーが自己を中心に置き、個人的な投資や解釈、分析を明示することを提案しました。

1980年代

この時期には、研究者が文化や物語の重要性を認識し、エスノグラフィーの実践における個人的な関与が増していきました。1980年代の後半には、内省的で個人的に関与した自己が文化的信念や実践とどのように相互作用するかを探る実践に「オートエスノグラフィー」という用語が適用されるようになりました。

1990年代

個人的な物語の重要性が増し、オートエスノグラフィーが広く使われるようになりました。この時期には、質的研究のハンドブックやEthnographic Alternativesなどのシリーズが発表され、オートエスノグラフィーの関心が高まりました。それに伴い、個人の物語を通じて文化的な信念や実践を探求することが強調されるようになりました。

今後の展望

オートエスノグラフィーは、感情的で不確かさのある社会生活を考慮し、研究方法としての可能性を広げる重要な手法と言えます。研究者は自身の経験を通じて、社会的な文脈を理解し、他者との関係を再考することが求められています。今後もこの手法は、様々な学問分野において重要な役割を担っていくことでしょう。

もう一度検索