オートポイエーシス

オートポイエーシスの概念

オートポイエーシス（autopoiesis）とは、1970年代初頭にチリの生物学者ウンベルト・マトゥラーナとフランシスコ・バレーラによって提唱された理論であり、生命システムの本質を探求するものです。具体的には、生命の有機的な構成（organization）とは何か、という問いに対する答えを模索するものです。

この理論の親となったのは、神経生理学における研究です。特に、ハトの色知覚に関連する実験が行われ、マトゥラーナの研究により、神経系の活動が外的な物理的刺激と相互に関連しないことが発見されました。ハトの網膜に電極を挿入し、視覚刺激を与えると特定の神経細胞が刺激されるものの、その活動は光の物理的特性や色のエネルギーには対応していなかったのです。

この発見は、神経システムが外的刺激に直接的な反応を示さないにもかかわらず、生物が環境に適応する能力を示唆しました。こうしたパラドックスへの探求が、マトゥラーナによってオートポイエーシスシステムのモデルへと発展していきました。

オートポイエーシスの定義

オートポイエティック・マシンは、構成素が互いに生み出し合うというプロセスを通じて、自己を生産する能力を持つ機械として定義されます。このとき、構成素は次のような特性があります。
1. それぞれの構成素が、変換と相互作用を通じて自己を産出するプロセスのネットワークを再生産し続けること。
2. そのネットワークが空間内に存在し、自己を形成する位相的な領域を特定すること。

この定義は、オートポイエーシスが生物学的な生命システムにとどまらず、より一般的なシステム論に応用できることを示唆しています。生命システムは、自律的に自己を維持し、環境との相互作用の中で生き延びる能力を持っているのです。

歴史的背景と発展

オートポイエーシスという用語は、元々は生命の物理的特性に焦点をあてたものでしたが、後に社会科学や心理学など、多様な分野に適用されていきました。特に1984年にはニクラス・ルーマンがオートポイエーシスを社会システム理論に導入し、自己言及のシステムを形成すると主張しました。この変換は、オートポイエーシスの概念を社会的な文脈でも有効にする画期的なものでした。

日本においては、河本英夫によるオートポイエーシスの研究が特に知られています。彼はこの概念を「行為存在論」として展開し、システムの働きがどのように現れるか、またそれがどのように変化するかを探求しました。彼の著作はオートポイエーシスの理解を深めるための重要な資料となっており、初心者向けの解説書や専門的な研究を通じて広まりました。

オートポイエーシスの特徴

オートポイエーシスにはいくつかの特徴があります。まず、自律性や個体性、境界の自己決定などが挙げられます。また、オートポイエーシスにおける重要な要素は「入力と出力の不在」です。つまり、外的な刺激によってされる作用でなく、システム内部で自己を生み出し続けることによって維持されています。

このように、オートポイエーシスは生命を考える上での新しい視点を提示し、自己生産のメカニズムやシステム間の関係を考える上で重要な理論としての地位を確立しました。様々な学問領域においてその概念が発展しており、現代においても多くの議論や研究が続けられています。

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