オーバードライヴ (2004年の映画)

オーバードライヴ

2004年に公開された日本映画で、筒井武文が監督を務め、柏原収史が主演を務めた作品です。ロックの世界に生きる主人公が、偶然から津軽三味線という日本の伝統音楽と出会い、その奥深さに触れながら人間的に成長していく姿を描いています。

あらすじ

物語は2003年、東京で活動するスリーピースロックバンド「ゼロデシベル」のギタリスト、麻田弦を中心に展開します。バンドは女性ボーカルの美潮との軋轢から解散の危機に瀕しており、新曲発表の記者会見も不穏な空気に包まれていました。会見後、泥酔した弦がタクシーに乗り込み「下北まで」と告げ眠り込んでしまいます。しかし、数時間後に彼が目を覚ました場所は、東京の下北沢ではなく、はるか遠く離れた青森県の下北半島でした。高額な運賃を支払えない弦は、乗っていたタクシーの運転手である五十嵐五郎に引き取られる形で、彼の自宅へ連れて行かれます。

五郎はかつて「津軽の龍」「サンダー・フィンガー・ボーイ」の異名で知られた津軽三味線の名手でしたが、不慮の事故で左手を失い、現在は義手をつけながら個人タクシー業を営んでいます。彼は長年、津軽三味線の後継者となるべき才能を探し求めており、テレビで会見中の弦の姿を見て、彼こそがその人物だと見込んで無理やり連れてきたのでした。五郎はこれを「スカウト」と称しています。

弦は五十嵐家からの脱出を試みますが、五郎の孫娘である晶の魅力に惹かれ、一時的に三味線を習うことに同意します。五十嵐家は変わった造りで、地上の一軒家から地下へと続く長い通路の先に、さらに地下の住居があるという隠れ家のような場所でした。五郎は「津軽三味線には体力が必要」との持論から、この地下通路を使った独特な訓練を弦に課します。

後日、五郎に連れられて大和ヒロミが主宰する三味線道場「大和会」を訪れた弦は、そこで若手の実力者であり、晶に好意を寄せる大石聖一郎と三味線勝負をすることになります。三味線を始めたばかりの弦は当然のように敗北しますが、この一件を機に聖一郎は晶へのアプローチを強め、弦は恋のライバルとしても彼を意識し始めます。やがて、津軽三味線の最高峰を決める大会「津軽三味線アルティメット大会」が近づき、弦と聖一郎は出場に向けて練習に励みます。

そんな中、五郎のかつての破門された弟子、倉内宗之助が大会出場のため密かに下北に戻ってきます。晶は、始めたばかりの弦が大会に出ると聞き、「予選を通過したらデートしてあげる」と励ましの言葉をかけます。この言葉に奮起した弦は猛練習に打ち込み、三味線の腕前を向上させます。再び大和会で弟弟子との対決に勝利し、自信をつけた弦を見た大和は焦り、宗之助と手を組みます。宗之助の怪しい音色に圧倒され、五郎も体調を崩してしまう事態に、聖一郎は大和会を離脱します。晶は五十嵐家に伝わる特別なダブルネックの三味線を弦に託し、魂を込めて三味線を弾くことの大切さを教えながら彼の特訓をサポートします。

大会当日、弦、聖一郎、宗之助はそれぞれ予選を突破し、ベスト4に進出します。準決勝で聖一郎が宗之助に敗れる一方、弦は決勝進出を決めます。決勝で宗之助と対峙した弦は、託されたダブルネックの三味線で演奏を開始しますが、途中で弦が切れるアクシデントに見舞われます。絶体絶命のピンチに、会場に駆けつけた五郎が名器の三味線を渡し、弦は演奏を再開します。魂のこもった演奏で宗之助の怪しい音色を凌駕した弦は、見事優勝を果たし、五郎や晶、そして観客から喝采を浴びるのでした。

作中の設定

「ゼロデシベル」は、元モデルの美潮、作曲担当のジン、そしてギタリストの弦によるロックバンド。ハウスやハイエナジーサウンドにブルージーなギターが絡むと評される独特な音楽性が特徴です。作中冒頭で活動休止を発表しますが、レコード会社との契約は残っており、新曲制作が物語に絡んできます。

五十嵐五郎の自宅は、地下に広がる隠れ家のような構造が特徴で、五郎が過去に三味線奏者を目指させていた人々が生活し練習していた場所として描かれます。

「津軽三味線アルティメット大会」は、プロアマ問わず誰でも参加可能な開かれた大会です。予選は複数の演奏者がステージ上で順番に演奏し、審査員の挙げるプレートの数で通過者が決定されます。本戦以降は1対1の対戦形式で、MCバトルのように短いフレーズを交互に演奏し合い、審査員の旗の数で勝敗が決まるというユニークなルールで行われます。

その他、物語の語り部となる「歌姫」、悪の撥「邪音」、怪しげな「謎の男」など、個性的なキャラクターや要素が登場し、物語を彩っています。

主な出演者

麻田弦（演：柏原収史）：ロックバンド「ゼロデシベル」のギタリスト。自惚れ屋だが三味線との出会いで成長する主人公。
五十嵐五郎（演：ミッキー・カーチス）：元津軽三味線の名手で、タクシー運転手。後継者を探すべく弦を“スカウト”する。
五十嵐晶（演：杏さゆり）：五郎の孫娘。食いしん坊だが、弦の三味線の師として精神面を支える存在。
大石聖一郎（演：新田昌弘）：大和会の若き実力者で大会前年覇者。弦の恋と三味線のライバルとなる。
倉内宗之助（演：新田弘志）：五郎の元弟子。怪しい音色を放つ実力者で、物語の鍵を握る存在。
美潮（演：鈴木蘭々）：ゼロデシベルのボーカル。弦の元恋人であり、感情の起伏が激しい。
ジン（演：賀集利樹）：ゼロデシベルのシンセサイザー担当。弦との友情を大切にしている。
大和ヒロミ（演：石橋蓮司）：大和会会長。大会9連覇中の名門の主で、審査員長も務める。

（物語に関わるその他のキャストとして、五十嵐和哉、歌姫、謎の男、ゼロデシベル・マネージャー、木下伸市、沢村、坂条、吉田兄弟などが登場します。）

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