オーバーレブ!

山口かつみ氏が描く漫画『オーバーレブ!』は、小学館の『週刊ヤングサンデー』にて1997年から2004年にかけて連載された青春ストーリーです。競技中の事故によりアキレス腱を断裂し、陸上選手としての道を断たれてしまった主人公の志濃涼子が、カーレース、特にドリフトの世界と出会ったことをきっかけに、「走る」ことの中に新たな生きがいを見出していく姿を中心に描かれています。

物語は、インターハイ出場を目前にして選手生命を絶たれた涼子の絶望から始まります。しかし、偶然目にした鮮烈なS13シルビアのドリフト走行とその女性ドライバーに心を奪われた彼女は、車への憧れを抱くようになります。そのドライバーである森田佐和子（サワコ）をはじめ、片山愛香（アイカ）、橘沙璃（サリ）、麻生拓郎（弾丸）、そして自動車解体業を営む師匠の赤岡といった個性豊かな仲間たちとの出会いが、涼子を走り屋の世界へと深く引き込みます。涼子は彼らとの交流を通じてドリフトの技術を磨き、様々な困難やライバルとのバトルを経験しながら、ドライバーとしても人間としても成長していきます。

主人公・涼子の愛車は、赤岡の解体屋から手に入れたスクラップ寸前のAW11 MR2（愛称「ミスター」）。陸上仕込みの身体能力と集中力を活かした涼子のドライビングテクニックの向上に伴い、MR2もエンジン換装やチューニングが施されていきます。やがて、彼女は当初実力で先行していたサワコやアイカに勝利するほどになり、物語の終盤では海外でラリードライバーとして活躍するまでに成長を遂げます。

サワコは「感性ドリフト」を得意とする天才肌の女性ドライバーで、涼子を走り屋の世界へ導いた人物。アイカはトラック運転手で、理論派かつ安全志向のドライバー。過去の事故で負った心の傷を持ちながらも、涼子たちとの出会いで変わっていきます。サリはフランス帰りの外交官令嬢で、音楽的なリズム感を活かした独自の走りを展開します。その他にも、涼子の幼馴染でメカニック知識も豊富な武内徹、その兄で走り屋チーム「FACTOR」のリーダー武内タカオ、直角ドリフトを追い求める熱血漢の弾丸、そしてパリ・ダカのチーフメカニック経験を持つ赤岡など、魅力的なキャラクターが多数登場し、物語を盛り上げます。

物語の舞台は、神奈川県相模原市を中心に、横浜市本牧埠頭、桑原峠、そして多くのバトルが繰り広げられた横山峠など実在の場所をモチーフにした峠が舞台となります。横山峠が走り屋にとって走りづらい状況になった後は、烏沢峠や犬鳴峠、サーキット、万島などへ舞台を移し、様々なライバルたち（アクロバット、ノーマルの狼、NANBA1、ジェリーズなど）との熱いバトルが展開されます。

本作は連載期間中に1999年にドラマCD化、2001年にVシネマ化されるなどメディアミックスも行われました。そして、連載終了から時を経た現在も作品世界は広がりを見せています。2019年3月からはウェブコミック誌『マンガクロス』にて、本作から約10年後を描いた正統続編『クロスオーバーレブ!』が連載中。さらに2020年5月からは『ヤングチャンピオン烈』にて、原作単行本3巻から5巻に収録された「音速の美少女編」を橘沙璃の視点から再構成・深掘りするスピンオフ『オーバーレブ! 90's -音速の美少女たち-』が連載開始されました。これらの新シリーズによって、往年のファンだけでなく新たな読者も作品世界を楽しむ機会が生まれています。

作者名の隣に記される「TEAM39」は、連載当初の制作協力スタッフの総称で、彼らの生年が昭和39年であることに由来しています。累計発行部数は2019年8月時点で1000万部を突破しており、その人気ぶりが伺えます。『オーバーレブ!』は、単なるカーアクション漫画に留まらず、挫折からの立ち直り、友情、そして「走る」ことへの情熱を描いた、多くの読者に愛される作品です。

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