オーモンド伯爵 (アイルランド)

オーモンド伯爵、侯爵、公爵の歴史

オーモンド伯爵（Earl of Ormond）、オーモンド公爵（Duke of Ormond）、オーモンド侯爵（Marquess of Ormonde）は、アイルランド貴族の中でも特に複雑な歴史を持つ爵位です。オーモンド伯爵位は、その歴史の中で3度創設されており、それぞれの創設には様々な背景と人物が関わっています。

初期のオーモンド伯爵

最初のオーモンド伯爵位は1328年にジェームズ・バトラーに授与されました。しかし、1449年には第5代オーモンド伯爵ジェームズがイングランド貴族としてウィルトシャー伯爵にも叙されたものの、1461年に私権を剥奪され、爵位を没収されてしまいます。その後、オーモンド伯爵位は彼の弟ジョンに返還され、第6代伯爵となりました。

二度目の創設

1528年には、事実上の伯爵であったピアーズ・バトラーが伯爵位の継承権を放棄させられ、これが二度目の創設につながります。アン・ブーリンの父であるトマス・ブーリンがオーモンド＝ウィルトシャー伯爵として叙爵されたのです。当時、アンはヘンリー8世の王妃であり、ブーリンは第7代伯爵の女系の孫であったため、本来の継承順位は低かったにもかかわらず、この地位を得ました。ブーリンの死後、彼の息子ジョージが大逆罪で処刑され後継者がいなかったため、この二度目の伯爵位は断絶しました。

三度目の創設とその後

第7代伯爵の孫であるピアーズ・バトラーは、その功績を認められ、称号返還の5日後にオソーリィ伯爵に叙爵されました。そして1538年、ピアーズ・バトラーに対して3度目のオーモンド伯爵位が創設されます。これは、ブーリンの追放に先立ち、本来の継承権が認められた結果でした。第3期では、5代オーモンド伯爵ジェームズ・バトラーが1642年にアイルランド貴族としてオーモンド侯爵、1660年にオーモンド公爵となり、さらに1682年にはイングランド貴族としてもオーモンド公爵に叙されています。

オーモンド公爵の成立

1682年、第12代伯爵ジェームズがアイルランド貴族としてのオーモンド公爵を叙爵されて以降、「オーモンド」の名前は広く使われるようになりました。公爵位には、イングランド貴族としてのブレックノック伯爵（1660年）とバトラー男爵（1660年）、アイルランド貴族としてのオーモンド伯爵（1328年）、オソーリィ伯爵（1528年）、サールス子爵（1536年）が従属称号として含まれていました。しかし、1715年には、初代オーモンド公の孫である第2代オーモンド公爵が私権を剥奪され、イングランド貴族位を没収されてしまいます。1758年には、第2代公爵の弟で、法律上の第3代公爵（アイルランド）が亡くなったことで、公爵位と侯爵位は廃絶しました。

近代のオーモンド家

1816年には、第18代オーモンド伯爵ウォルターがオーモンド侯爵に叙爵されましたが、この侯爵位は彼の死によって廃絶しました。その後、彼の弟ジェームズが伯爵位を継承し、1825年に連合王国貴族として再びオーモンド侯爵に叙爵されました。しかし、この侯爵位も1997年に廃絶し、伯爵位は休止状態となっています。

オーモンド伯爵の系譜

以下に、オーモンド伯爵の系譜をまとめます。

オーモンド伯 (第1期; 1328年)
初代オーモンド伯 ジェームズ・バトラー (c. 1305年–1338年)
2代オーモンド伯 ジェームズ・バトラー (1331年–1382年)
3代オーモンド伯 ジェームズ・バトラー (1361年–1405年)
4代オーモンド伯 ジェームズ・バトラー (1392年–1452年)
5代オーモンド伯 ジェームズ・バトラー (1420年–1461年) (1449年に初代ウィルトシャー伯爵にも叙されている)
6代オーモンド伯 ジョン・バトラー (1422年–1478年)
7代オーモンド伯 トマス・バトラー (c. 1426年–1515年)
オーモンド伯 (第2期; 1529年)
初代オーモンド＝ウィルトシャー伯 トマス・ブーリン (1477年–1539年)
オーモンド伯 (第1期; 復活) / (第3期; 1538年)
8代オーモンド伯 ピアーズ・バトラー (1467年–1539年) (1528年に初代オソーリィ伯爵にも叙されている)
9代オーモンド伯 ジェームズ・バトラー (1496年–1546年) (1536年に初代サールス子爵にも叙されている)
10代オーモンド伯 トマス・バトラー (1532年–1614年)
11代オーモンド伯 ウォルター・バトラー (1569年–1634年)
12代オーモンド伯 ジェームズ・バトラー (1610年–1688年) (1661年にオーモンド公爵を授けられる)
オーモンド公 (1661年; アイルランド) / (1682年; イングランド)
初代オーモンド公 / 12代オーモンド伯 ジェームズ・バトラー (1610年–1688年)
2代オーモンド公 / 13代オーモンド伯 ジェームズ・バトラー (1665年–1745年) (1715年にイングランド貴族の称号のみ没収された)
3代オーモンド公 / 14代オーモンド伯 チャールズ・バトラー (1671年–1758年) (アイルランド貴族称号の継承者であることを本人も知らなかった法律上の所有者)
オーモンド伯 (1328年/1538年; 復帰)
15代オーモンド伯 ジョン・バトラー (1766年没) (法律上)
16代オーモンド伯 ウォルター・バトラー (1703年–1783年) (法律上)
17代オーモンド伯 ジョン・バトラー (1740年–1795年)
18代オーモンド伯 ウォルター・バトラー (1770年–1820年) (1816年にオーモンド侯爵に叙される)
オーモンド侯 (1816年)
初代オーモンド侯 / 18代オーモンド伯 ウォルター・バトラー (1770年–1820年)
オーモンド伯 (1328年/1538年; 復帰)
19代オーモンド伯 ジェームズ・ワンデスフォード・バトラー (1777年–1838年) (1825年にオーモンド侯爵を受ける)
オーモンド侯 (1825年)
初代オーモンド侯 / 19代オーモンド伯 ジェームズ・ワンデスフォード・バトラー (1777年–1838年)
2代オーモンド侯 / 20代オーモンド伯 ジョン・バトラー (1808年–1854年)
3代オーモンド侯 / 21代オーモンド伯 ジェームズ・エドワード・ウィリアム・シオボールド・バトラー (1844年–1919年)
4代オーモンド侯 / 22代オーモンド伯 ジェームズ・アーサー・ウェリントン・フォーリー・バトラー (1849年–1943年)
5代オーモンド侯 / 23代オーモンド伯 ジェームズ・ジョージ・アンソン・バトラー (1890年–1949年)
6代オーモンド侯 / 24代オーモンド伯 ジェームズ・アーサー・ノーマン・バトラー (1893年–1971年)
* 7代オーモンド侯 / 25代オーモンド伯 ジェイムズ・ハバート・シオボルド・チャールズ・バトラー (1899年–1997年) - 1997年に伯爵位は休止、侯爵位は廃絶

オーモンド＝オソーリィ伯爵

現在、第7代オーモンド侯爵が保持していたオーモンド＝オソーリィ伯爵の法定推定相続人は、第8代オーモンド伯爵の次男リチャードの男系子孫にあたる第18代マウントギャレット子爵と考えられています。しかし、彼は法定推定相続人であることを貴族院に対し証明しておらず、継承権は公式には認められていません。


オーモンド伯爵、侯爵、公爵の歴史は、アイルランド貴族の複雑な変遷を象徴するものであり、バトラー家とイングランド王室との関わりを深く物語っています。

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