カトリック解放

カトリック解放運動：イギリスにおけるカトリック教徒の権利獲得

18世紀後半から19世紀初頭、イギリス（グレートブリテン王国、後にグレートブリテンおよびアイルランド連合王国）では、長年ローマ・カトリック教徒に課せられていた様々な制約を撤廃しようとする運動、カトリック解放運動が展開されました。この運動は、カトリック教徒の宗教的、政治的権利の回復を目的として、社会・政治的変革をもたらしました。

制約と初期の救済措置

当時、カトリック教徒は礼拝の自由、土地所有、公職への就労などにおいて厳しい制限を受けていました。これらは、宗教的な偏見と、カトリック教会と王室との関係への懸念に根ざしていました。

初期の救済策は限定的でした。1778年のカトリック教徒法は、王位継承権へのカトリック側の主張の放棄と教皇の権威否定を条件に、カトリック教徒の土地所有や軍への参加を許可しました。しかし、この法律はスコットランドでの暴動やゴードン暴動（1780年）を引き起こすなど、社会的な混乱を招く要因にもなりました。その後も段階的に緩和策が講じられ、カトリック学校の設立や、一定の財産を持つカトリック教徒への選挙権付与などが実現しました。

1800年連合法と政治的解放

1800年の連合法によりグレートブリテンおよびアイルランド連合王国が成立しましたが、カトリック教徒の完全な政治的解放は実現しませんでした。当時の首相ウィリアム・ピット（小）は解放を約束しましたが、国王ジョージ3世の反対により実現せず、カトリック解放はその後も重要な政治課題として議論が続けられました。アイルランド出身のカトリック教徒兵士の活躍は、解放への世論形成に一定の影響を与えたと考えられます。

ダニエル・オコンネルと世論の変化

1820年代、ダニエル・オコンネルの率いるカトリック協会の活動が、解放運動を大きく前進させました。オコンネルは選挙に出馬し当選、カトリック教徒の代表として政治的影響力を高めました。重要なのは、世論がカトリック教徒の解放に傾いていったことです。ホイッグ党など、解放に賛成する政治勢力の働きかけも大きく、世論の圧力と政治家の判断が、解放への大きな原動力となりました。

1829年カトリック救済法

ついに1829年、ウェリントン公爵とピール卿の支持を得て「ローマ・カトリック教徒救済法」が成立しました。この法律により、カトリック教徒に対する多くの実質的な制約が撤廃されました。ただし、選挙権を得るための資産要件が引き上げられるなど、完全な平等とは程遠いものでした。それでも、この法律は中流階級のカトリック教徒に大きな恩恵をもたらし、公職や司法への道を開きました。1829年はカトリック解放の重要な転換点とされています。しかし、10分の1税問題など、その後も課題は残りました。

王位継承法と宗教的偏見

1701年王位継承法は、カトリック教徒の王位継承を禁止していました。この法律は、カトリック教徒とプロテスタント間の宗教的対立の歴史的背景と、イギリス王室の権威維持という政治的思惑が絡み合って成立したものでした。しかし、18世紀後半以降、教皇がハノーヴァー朝をイギリス王室として認めたことで、この法律の重要性は低下していきました。

政治的結果とヨーロッパにおける類似改革

アイルランドにおけるカトリック解放は、ナショナリズムの高まりにもつながりました。オコンネルは、1800年連合法の廃止を求める運動を展開しますが、成功には至りませんでした。ヨーロッパでは、フランス革命後の非キリスト教化や、ドイツにおけるアンチ・カトリック運動など、宗教政策をめぐる様々な動きがありました。これらの出来事は、宗教的寛容への社会的な変化を示すものでした。アイルランドのプロテスタント勢力は、カトリック教徒の台頭に懸念を示し、抵抗運動も発生しました。

カナダとニューファンドランド

カナダ（ケベック）では、カトリック教徒は比較的早い段階から宗教的自由を享受していました。しかし、イギリス領カナダ全体では、カトリック教徒の政治参加は制限されていました。ニューファンドランドでは、カトリック教徒の解放はアイルランドよりも遅れ、政治的な争いの的となりました。1829年のカトリック救済法は当初ニューファンドランドには適用されませんでしたが、イギリス政府の圧力により、最終的にはカトリック教徒の権利が保障されました。

まとめ

カトリック解放運動は、宗教的偏見と政治的権力闘争が複雑に絡み合った歴史的過程でした。この運動は、イギリスにおけるカトリック教徒の権利獲得という成果だけでなく、アイルランドのナショナリズムや、ヨーロッパにおける宗教政策の変化にも影響を与えました。また、植民地におけるカトリック教徒の状況にも光を当てています。

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