カビール・カーン

カビール・カーン（Kabir Khan）は、1968年9月14日生まれのインドの著名な映画製作者です。監督、脚本家、撮影監督として多岐にわたる活動を展開しています。

キャリア初期とドキュメンタリー

デリー大学キロリ・マル・カレッジおよびジャミア・ミリア・イスラミアで学んだカビール・カーンは、当初ドキュメンタリーの世界でキャリアをスタートさせました。1996年にはゴータム・ゴース監督によるディスカバリーチャンネルのドキュメンタリー『Beyond the Himalayas』で撮影監督を務め、映像制作の基礎を築きました。監督としてのデビュー作は、1999年に手掛けたドキュメンタリー映画『The Forgotten Army』です。これはスバス・チャンドラ・ボース率いるインド国民軍を描いた作品で、彼の後の商業映画への移行に向けた重要な一歩となりました。

商業映画での成功

ドキュメンタリーでの経験を生かし、カビール・カーンは商業映画の世界に進出します。2006年、『カブール・エクスプレス』で長編商業映画の監督としてデビューを果たし、その手腕が評価され、第54回国家映画賞でインディラ・ガンディー賞の新人監督作品賞を受賞しました。

その後、インドの大手映画製作会社ヤシュ・ラージ・フィルムズと提携し、『New York』（2009年）や大ヒット作『タイガー 伝説のスパイ』（2012年）を監督しました。これらの作品は商業的な成功を収め、彼を人気監督の地位に押し上げました。

ヤシュ・ラージ・フィルムズとの契約終了後、自身のプロダクションハウスを設立し、独立した製作活動も行っています。特に2015年に監督した『バジュランギおじさんと、小さな迷子』は、インド国内で歴代有数の興行収入を記録する歴史的ヒットとなり、その感動的なストーリーと普遍的なテーマが高く評価されました。この作品は、第63回国家映画賞でも健全な娯楽を提供する大衆映画として表彰され、商業的な成功と批評的な評価の両方を獲得しました。

同年には、カトリーナ・カイフとサイーフ・アリー・カーンを主演に迎えた『Phantom』も監督しています。2017年には、サルマーン・カーンと再びタッグを組み、映画『Little Boy』をリメイクした『Tubelight』を製作しました。また、近年ではAmazonプライム・ビデオと共同で、かつて自身がドキュメンタリーで手掛けたテーマであるインド国民軍を題材としたドラマシリーズ『フォーガットン・アーミー』を製作・監督するなど、ストリーミングサービスにも活躍の場を広げています。

国際的な共同製作にも積極的で、2019年には中国との共同製作映画『The Zookeeper』を製作・監督しました。この作品は成都市近郊で撮影され、多額の製作費を投じてインドと中国の俳優が共演する国際色豊かな作品となりました。その他にも、インドのクリケットワールドカップ優勝を描いた『83』（2020年）など、話題作を手掛けています。

背景と家族

カビール・カーンは、多様な文化的背景を持つ家庭に生まれました。父ラシードゥッディーンはウッタル・プラデーシュ州出身のパシュトゥーン系のムスリムで、共産主義の政治家であり、ジャワハルラール・ネルー大学の創設に関わった政治学教授でもありました。また、インド大統領を務めたザーキル・フセインの甥にあたる人物です。母リーラーは南インド出身のヒンドゥー教徒で、テルグ語を話しました。このような多様な背景は、彼の作品における社会派の視点や、異なる文化・コミュニティ間の交流を描くテーマに影響を与えていると考えられます。

彼の姉アヌシェは、ヤシュ・ラージ・フィルムズで『チェイス!』などのヒット作を監督したヴィジャイ・クリシュナ・アーチャールヤと結婚しており、カビール自身もアーチャールヤと共に同社を代表する監督の一人として知られています。

私生活では、テレビ番組の司会者であるミニ・マトゥールと結婚しており、二人の子供がいます。

カビール・カーンは、ドキュメンタリーで培ったリアリティへの視点と、商業映画におけるエンターテインメント性を巧みに融合させ、社会的なメッセージと大衆性を両立させる作風で、インド映画界において確固たる地位を築いています。

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