カフェ・タンブランの女

カフェ・タンブランの女

フィンセント・ファン・ゴッホが1887年に制作した油彩画「カフェ・タンブランの女」は、パリのカフェ「カフェ・タンブラン」を舞台に描かれた作品です。この絵のモデルとなったのは、カフェの経営者であるアゴスティーナ・セガトーリです。

モデル：アゴスティーナ・セガトーリ

1886年にオランダからパリに出てきたゴッホは、1887年の2月から3月頃にこの作品を描きました。絵の中に描かれたタンバリン型のテーブルとスツールから、場所がクリシー大通りのカフェ・タンブランであることがわかります。煙草を吸いながら宙を見つめる女性は、店主であるアゴスティーナ・セガトーリその人でしょう。

セガトーリは1841年頃にイタリアで生まれ、ナポリで生活した後、1860年頃までにパリに移住しました。パリでは、ジャン＝レオン・ジェローム、ジャン＝バティスト・カミーユ・コロー、エドゥアール・マネといった著名な画家のモデルを務めました。その後、パトロンを得て、1885年にカフェ・タンブランを開業しました。ゴッホはカフェ・タンブランの常連客で、自分の作品を店内に飾ってもらっていたこともあります。一時はセガトーリと交際関係にあったとも言われていますが、確かなことは分かっていません。

作品の特徴

この作品は、ゴッホがパリに出てきて、オランダ時代の暗い色彩から脱却し、印象派の影響を受け始めた時期のものです。パリのレストラン、バー、ナイトクラブといったナイトスポットは、ピエール＝オーギュスト・ルノワールやアンリ・ド・トゥールーズ＝ロートレックなど、印象派の画家たちが好んで描いた題材でした。

ロートレックは、アブサンを飲むゴッホを描いた肖像画を残しており、この絵もカフェ・タンブランで描かれたのではないかと考えられています。また、ロートレックは「カフェにて」という作品で、本作品と似た構図でカフェに座る女性を描いています。ゴッホは、この絵から影響を受けていた可能性も指摘されています。X線解析によると、この作品の下には、別の女性の肖像画が描かれていたことが判明しています。

この作品は、ゴッホの画風が変化していく過程を示す貴重な作品であり、当時のパリのカフェ文化の一端を垣間見ることができる作品としても高く評価されています。

ゴッホの作品の中でも、特に印象派の影響が色濃く表れている作品の一つとして、「カフェ・タンブランの女」は、美術史における重要な位置を占めています。

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