カミロ・ジッテ

カミロ・ジッテ（Camillo Sitte, 1843年 4月17日 - 1903年 11月16日）は、19世紀後半から20世紀初頭にかけて活動したオーストリアの建築家、画家、そして都市計画家・学者です。当時の都市計画が、技術的効率や経済性を優先するあまり、単調で画一的な形態に偏りがちであった状況に対し、彼は強い疑問を投げかけました。都市開発を単なる経済活動の対象と捉えるのではなく、人々が集い、文化や芸術が育まれる豊かな場としての都市空間の重要性を説き、芸術性あふれる歴史都市の再生を目指しました。

芸術としての都市計画論

ジッテの都市計画思想の核心は、過去の優れた都市空間に対する深い洞察に基づいています。彼は特に中世からバロック期にかけてのヨーロッパの都市、例えばローマ、ゴシック、ルネサンス期の都市を詳細に分析しました。その研究を通じて、広場とそれに面する教会や市庁舎といった公共建築が織りなす有機的な関係性、街路空間とのつながり、そして全体として調和のとれた外部空間の構成方法を見出しました。

彼は、当時の近代都市計画で主流であった画一的な幾何学主義を批判しました。都市空間の形成においては、意図的な不規則性や非対称性を尊重することが、より人間的で視覚的に豊かな景観を生み出すと考えたのです。自然の要素を取り込み、都市の各構成要素が一体となって視覚的に印象深く、絵画のような美しい都市景観を創り出すことこそが重要だと主張しました。この革新的な都市観は、1889年に出版された彼の代表作『City Planning According to Artistic Principles』（邦題『広場の造形』）によって世界中に広まり、当時の都市計画の考え方に大きな変革をもたらすきっかけとなりました。

経歴：理論と実践の基盤

ジッテは1843年、ウィーンのラントシュトラーセ地区に生まれました。父親フランツ・ジッテは著名な教会建築家であり、彼は幼少期から建築に親しむ環境で育ちました。1860年代から数年間、家業を手伝いながら建築の基礎を学び、ギムナジウム修了後はウィーン・ポリテクニーク（現ウィーン工科大学）で学び、さらにウィーン大学で考古学と美術史を専攻しました。この時期、ウィーンの環状道路「リンクシュトラーセ」計画に関わっていたルドルフ・フォン・アイテルベルガー教授のもとでの演習を通じて、都市計画への関心を深めていきました。その後のイタリアやドイツへの旅は、ルネサンス美術に触れる機会となり、彼の芸術観や都市に対する視点に決定的な影響を与えました。

1875年の結婚と同じ年、彼はザルツブルクに新設された国立工芸学校の校長に迎えられ、1883年までその職を務めました。この期間中、彼は多くの建築設計競技の審査員としても活躍し、設計の実践的な側面にも深く関わりました。また、1877年にはザルツブルクで雑誌を発行するなど、多角的な活動を展開しました。

実践的な都市計画案

ジッテの理論は、単なる学術的な提言に留まらず、実際の都市計画案として具体化されました。彼は多くの都市で計画策定に携わり、既存の道路形状や河川の流路といった自然条件を生かした、景観を重視する計画を提案しました。彼の仕事は、特に現在のチェコやポーランドの中小都市において数多く見られます。

特筆すべき例として、1894年にチェコの北モラヴィア地方オルムツから委託された広域都市拡張計画があります。ここでは、撤去された城壁の跡地を巧みに利用し、旧市街地を取り囲むように多様なデザインの住宅や公共施設を配置しました。さらに、約150メートルもの幅を持つ広大な緑地帯を設け、新旧市街地と工業地域とを視覚的・機能的に分離するという手法を取り入れました。この計画は、後に「オルムツシステム」として広く知られるようになりました。

また、1903年に手掛けたポーランド北部マリエンベルクの都市建設計画では、広場を中心とした建築群を印象的に配置し、並木道や公園といった都市空間の要素を組み合わせることで、視覚的に豊かで絵画的な景観の創出を意図しました。

後世への影響と評価

カミロ・ジッテは、機能主義に傾倒しつつあった当時の都市計画に、芸術、文化、そして人間の感性といった視点を強力に持ち込みました。都市を単なる効率的な機能体としてではなく、人々の生活や交流が豊かに営まれる「生きた空間」として捉え直すことの重要性を訴えたのです。彼の思想と具体的な計画案は、その後の都市デザインや都市保全の分野に計り知れない影響を与えました。1903年には、ドイツ語圏初の月刊都市計画専門誌となる『Der Stadtebau』の創刊準備を進めていましたが、残念ながら同年、この世を去りました。

主な著作

- 『City Planning According to Artistic Principles』 (1889年) - 邦題『広場の造形』 (大石敏雄訳, SD選書175)
- 『The Birth of Modern City Planning』 (2006年)
- 『Gesamtausgabe. Schriften und Projekte』 (全6巻, 2003–2007年)

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