カムテール

カムテール：空気抵抗を克服した斬新な自動車デザイン

カムテール（Kamm tail、Kammback、K-テール、coda troncaとも呼ばれる）は、自動車後部の形状を特徴づけるデザイン要素です。車の屋根から後部にかけての面が下向きに傾斜し、下端まで到達する前に垂直、もしくはほぼ垂直な面で切り落とされた形状をしています。この独特のフォルムは、単なるデザインの流行ではなく、空気力学的性能の向上という明確な目的を持って生み出されました。

カムテールの起源：空気抵抗との闘い

1920～30年代、自動車の最高速度が向上するにつれ、空気抵抗（空力抗力）が無視できない問題となりました。空気抵抗が増加すると、車両を前進させるためにより多くのエネルギー、つまり燃料が必要となるためです。

この問題に対処するため、技術者たちは空気力学の原理を自動車設計に取り入れ始めました。1922年にはパウル・ヤーライが涙滴型車体に関する特許を取得。これは、丸みを帯びたノーズと長く先細りのテールを持つ形状で、空気抵抗を最小限に抑えることを目指したものです。タトラ・T77、クライスラー・エアフロウ、リンカーン・ゼファーといった流線型車両は、このヤーライの研究を反映した例と言えるでしょう。

しかし、長いテールは車両の全長を増加させ、実用性を損ねるという欠点がありました。そこで、技術者たちは別の解決策を探求します。1930年代半ば、ゲオルク・ハンス・マデルンクやラインハルト・フォン・ケーニヒ＝ファハゼンフェルトらが、ロングテールなしに空気抵抗を低減する手法を研究。そして、ヴニバルト・カムが、実用性と空気抵抗係数（Cd値）の両立を目指した革新的なデザインを考案したのです。

カムは、BMW 328をベースにカムテール形状のプロトタイプを製作し、Cd値0.25という優れた空気力学的性能を実現しました。この成功が、カムテールの普及に大きく貢献しました。初期の量産車としては、ナッシュ・エアフライトやボルグヴァルト・ハンザ2400などが挙げられます。

空力学的原理：涙滴型とカムテールの関係

空気抵抗を最小化する理想的な形状は、滑らかな涙滴型です。しかし、これは車両サイズとの兼ね合いで現実的ではありません。そこでカムは、テールを垂直に切り落とすことで、空気抵抗の増加を最小限に抑える方法を発見しました。

カムテールでは、後部の垂直面によって乱れた空気の流れ（曳き波領域）が形成されます。この曳き波領域が、長い傾斜したテールが持つ効果を模倣することで、滑らかな空気の流れを維持し、空気抵抗を低減するのです。カムの設計では、断面積が車体最大断面の50%になる地点でテールが途切れています。これにより、従来の平らな後部を持つ車両で発生する乱流が、多くの速度において抑制されます。

また、カムテールは車両のリフト（揚力）問題への対策にも貢献しました。特に1950年代以降、スポーツカーレースの高速化によりリフト問題は深刻化していました。テールを傾斜させることで、リフトが発生する表面積を減らし、低圧領域の発生を抑える効果があるのです。リアスポイラーの追加はかえって空気抵抗を増大させる可能性があるため、カムテール設計においては推奨されません。

カムテールの使用例と発展

1959年以降、カムテールはレーシングカーに広く採用され、空気抵抗とリフトの低減に貢献しました。近年では、ハイブリッド車において燃費向上策として注目を集めています。

一方で、あくまでデザイン要素としてカムテールを採用する車種も多く存在します。シボレー・ベガ・カムバックワゴンやAMCイーグル・カムバックなどは、その代表例と言えるでしょう。これらのモデルは、必ずしも空気力学的原理を忠実に再現しているわけではありませんが、カムテールの形状がデザイン上の特徴として用いられている点が共通しています。

カムテールは、空気力学的な知見に基づいた実用的なデザインとして、自動車の歴史に大きな足跡を残しました。今後も、燃費向上や走行性能の改善を目指した自動車デザインにおいて、重要な要素として存在し続けるでしょう。

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