カランコエの花

カランコエの花

2018年に日本で公開された映画『カランコエの花』は、中川駿が監督を務めた作品です。若手俳優の今田美桜をはじめ、多数のキャストが出演しています。

物語の背景とあらすじ

物語の舞台は、ある高等学校の2年生のクラスです。このクラスでは、特別に「LGBTについて」の授業が実施されます。しかし、この授業が他のクラスでは行われていないことが判明すると、生徒たちの間で「なぜ自分たちのクラスだけなのか？」「もしかして、このクラスにLGBTの生徒がいるのではないか？」という憶測が広がり始めます。やがて、その憶測はエスカレートし、クラスの中で当事者探しが始まってしまうのです。

本作の最も特徴的な点は、LGBT当事者自身の視点から物語を描くのではなく、その周囲にいるノン・マイノリティである生徒たちの視点から物語が展開されることです。これにより、多数派である「普通」とされる側の生徒たちの無自覚な言動や好奇心が、当事者をどのように追い詰め、孤立させていくのかが鮮明に描き出されます。多数派の善意や興味、あるいは好奇心が、いかに容易にマイノリティを翻弄し、傷つけうるのかという社会の構造的な問題に光を当てています。

制作の経緯

本作の制作は2016年に始まりました。監督の中川駿は、かねてよりLGBTに関する社会問題に関心を寄せていました。しかし、同時に非常にデリケートなテーマであることから、「安易に扱えば、かえって誰かを傷つけてしまうのではないか」という強い懸念を抱いていたといいます。この悩みを映画仲間に相談した際、「そのように考えること自体が、ある種の差別意識に基づいているのではないか」という指摘を受け、自身の内にある無意識の差別意識に気づかされます。また、社会全体に広がるLGBTへの「過剰とも見える配慮」の空気にも疑問を感じていた中川監督は、これらの経験や内省を通じて、本作を制作する決意を固めたとのことです。当事者ではなく周囲の視点を選んだことも、この制作背景と深く関連しています。

受賞と評価

『カランコエの花』は、そのテーマ性や表現方法が高く評価され、国内外の様々な映画祭で数々の賞を受賞しました。主な受賞歴は以下の通りです。

第26回レインボー・リール東京「レインボー・リール・コンペティション2017」グランプリ
第51回TOKYO月イチ映画祭 グランプリ
京都国際映画祭クリエイターズ・ファクトリー エンターテインメント映像部門グランプリ
第9回下北沢映画祭コンペティション 観客賞・日本映画専門チャンネル賞
第4回新人監督映画祭コンペティション部門 中編作品部門グランプリ
横浜インディペンデントフィルムフェスティバル 中編最優秀作品賞
第16回中之島映画祭グランプリ (2018年5月)

これらの受賞は、本作が投げかける問いかけの重要性と、その描写の繊細さが広く認められたことを示しています。

ソフト化とクラウドファンディング

多くの反響を呼んだ本作は、DVD化が決定しました。そのための資金は、クラウドファンディングプラットフォーム「MotionGallery」を通じて調達されました。目標金額として設定された80万円に対し、最終的に約529万円という、目標を大きく上回る資金が集まり、作品への期待値の高さがうかがえます。こうして集められた資金をもとに、2019年5月8日にはオデッサ・エンタテインメントの販売代理により、DVDが正式に発売され、より多くの人が作品を鑑賞できる機会が生まれました。

キャスト

本作を彩った主要キャストは以下の通りです。

今田美桜: 一ノ瀬月乃
永瀬千裕: 葛城沙奈
笠松将: 新木裕也
須藤誠: 佐伯洋太
有佐: 小牧桜
堀春菜: 梶原千里
手島実優: 矢嶋みどり
石本径代: 月乃の母
山上綾加: 小嶋花絵
古山憲正: 生徒
イワゴウサトシ: 加藤健一

彼らの演技によって、高校生たちの揺れ動く感情や、複雑な人間関係がリアルに描かれ、物語に深みを与えています。

『カランコエの花』は、特定の個人を傷つけることへの恐れを超え、自身の潜在的な差別意識に気づいた監督の誠実なまなざしを通して、現代社会における多様性との向き合い方、そして多数派が無意識のうちに生み出す排除の構造について、観る者一人ひとりに静かに問いかける作品と言えるでしょう。

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