カラーム

カラーム：イスラム教における神学的探求

カラーム（علم الكلام, `ilm al-kalām`）は、イスラム教における神学、より正確には弁証法を用いた神学的探求を指す言葉です。しばしば「イスラム思弁神学」とも呼ばれます。元々はアラビア語で「言葉」を意味する語でしたが、アッラーの言葉、あるいは言葉それ自身の神性に関する議論が盛んに行われるようになり、「議論」や「討論」という意味合いも持つようになりました。結果として、論理と証拠に基づいて信仰を確立し、信仰上の疑問を解消するための学問体系として確立されていったのです。

この用語の転換は、ムゥタズィラ学派の台頭以降に起こったとされています。ムゥタズィラ学派は、8世紀頃に誕生したイスラム教の重要な学派の一つで、理性と知性を重視し、聖典の解釈に際しても哲学的なアプローチを取り入れました。彼らは、聖典の記述をそのまま受け入れるのではなく、論理的整合性を追求し、信仰の合理的な基礎付けを試みました。このアプローチが、カラームという学問分野の発展を大きく促したと言えます。

カラームは、神の存在、神の属性、預言者ムハンマドの預言者としての使命、死後の世界、善悪といった、イスラム教における中心的な信仰問題を議論の対象としました。彼らは、聖典（コーラン）や預言者の言行録（スンナ）を根拠としながらも、哲学や論理学の手法を駆使し、綿密な議論を通してこれらの問題に取り組みました。

カラームにおいては、様々な学派が隆盛を極めました。代表的な学派としては、以下の３つが挙げられます。

1. スンナ派: スンナ派は、コーランとスンナ（預言者ムハンマドの言行録）を信仰と実践の唯一の規範とする立場です。カラームにおいても、スンナ派の学者は聖典とスンナの教えを重視しつつ、合理的な解釈と弁証法を用いて神学的諸問題を論じました。

2. ムゥタズィラ派: 前述の通り、理性と知性を重視した学派です。彼らは、聖典の解釈においても論理的整合性を追求し、神の属性や預言者ムハンマドの使命について独自の解釈を提示しました。アッラーの属性について、人間の属性とは区別すべきだとするなど、独自の理論体系を構築しました。

3. アシュアリー派: 10世紀にアブル・ハサン・アル・アシャーリーによって創始された学派で、スンナ派の立場に立ちながら、ムゥタズィラ派の合理主義的な側面を批判し、聖典の権威をより強く強調しました。彼らは、神学的諸問題について、理性と啓示の調和を模索しました。

これらの学派は、それぞれ異なる方法論や神学的立場に基づきながら、イスラム教における信仰の理解を深めるための探求を続けました。カラームの議論は、イスラム教思想の発展に大きな影響を与え、中世イスラム世界における学問の発展に貢献しました。現代においても、カラームはイスラム教神学の重要な研究対象であり続け、イスラム教徒の信仰生活や世界観の形成に重要な役割を果たしています。 カラームは、単なる学問体系にとどまらず、イスラム教信仰の根幹を支える重要な柱の一つと言えるでしょう。

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