カリオフィレン

カリオフィレン

カリオフィレン（Caryophyllene）は、より正確には(−)-β-カリオフィレンとして知られる、自然界に広く存在する有機化合物です。化学的には、炭素を15個持つセスキテルペン類に分類され、その分子構造中に特徴的な二つの環を持つ「二環式」の骨格を持っています。この化合物は、多くの植物の精油の重要な成分として見出されます。

存在と構造

このテルペンは、特にクローブ（チョウジノキ）のつぼみや茎から抽出される精油、アサ（大麻）、ローズマリー、そしてビールの製造に用いられるホップなどに豊富に含まれていることが知られています。自然界では、単独で存在するよりも、その立体異性体であるイソカリオフィレン（シス型の二重結合を持つ）や、構造的に類似しており別名α-カリオフィレンとも呼ばれるα-フムレンなどと混ざり合った形で存在することが一般的です。これらの類縁物質と共に、植物の香りの形成に寄与しています。

代謝と関連化合物

カリオフィレンは、生物体内や環境中で代謝を受けることで、構造が変化した誘導体を生じることがあります。その中でよく知られているのがカリオフィレンオキシドです。これは、カリオフィレンが持つ特定の二重結合の部分が酸化され、エポキシド構造に変化したものです。カリオフィレンオキシドは興味深い特性を持っており、例えば、特定の物質を探知するために訓練された犬が反応する大麻由来の匂い成分の一部として特定されています。また、食品の香りを高めるためのフレーバー成分としても承認されており、広く利用されています。

天然源

カリオフィレンは非常に多くの植物種で見られますが、その含有量は植物の種類や部位、生育条件によって大きく異なります。以下に、主な含有植物とその精油におけるおおよその含有率（括弧内）を示します。

アサ、ヘンプ、大麻 (_Cannabis sativa_)：大麻花精油中に3.8%から37.5%という広い範囲で見られます。
黒キャラウェイ (_Carum nigrum_)：約7.8%の含有が報告されています。
チョウジノキ (_Syzygium aromaticum_)：クローブ花精油には1.7%から最大19.5%程度含まれます。
ホップ (_Humulus lupulus_)：5.1%から14.5%程度含まれており、ホップ由来の香り成分として重要です。
バジル (_Ocimum spp._)：特に_O. gratissimum_で5.3%から10.5%、_O. micranthum_で4.0%から19.8%と種によって異なります。
オレガノ (_Origanum vulgare_)：4.9%から15.7%程度含まれることがあります。
黒胡椒 (_Piper nigrum_)：約7.29%含まれており、特徴的な香りの一部を担っています。
ラベンダー (_Lavandula angustifolia_)：ラベンダーオイル中に4.62%から7.55%程度見出されます。
ローズマリー (_Rosmarinus officinalis_)：0.1%から8.3%と比較的変動が大きい成分です。
セイロンニッケイ (_Cinnamomum zeylanicum_)：6.9%から11.1%程度含まれます。
マラバトラム (_Cinnamomum tamala_)：約25.3%と比較的高い含有率を示すことがあります。
イランイラン (_Cananga odorata_)：3.1%から10.7%含まれています。
* コパイバ油 (_Copaifera spp._)：コパイバの木から採取される精油にも含まれます。

これらの含有率はあくまで目安であり、植物の品種、栽培地、収穫時期、抽出方法などによって変動しうることが留意されます。

生体への作用

近年、カリオフィレンの生物活性に関する研究が進められています。特に注目されているのは、哺乳類の体内に存在する特定の受容体への作用です。ラットを用いた動物実験では、カリオフィレンがカンナビノイド受容体タイプ2（CB2受容体）に対して、選択的なアゴニスト（作動薬）として働く可能性が示唆されています。CB2受容体は、主に免疫系細胞や末梢神経系などに存在しており、炎症や痛みの調節に関与すると考えられています。カリオフィレンがこの受容体を活性化することで、大麻に含まれる一部の成分（カンナビノイド）が示すような抗炎症作用を発揮する可能性が報告されています。これらの研究は、カリオフィレンが持つ生理活性や、食品や医薬品としての可能性を探る上で重要な知見を提供しています。

まとめ

カリオフィレンは、多様な植物精油に存在する天然のセスキテルペンであり、独特の香りはもちろん、代謝物であるカリオフィレンオキシドの特性や、CB2受容体への作用を介した抗炎症作用の可能性など、多岐にわたる興味深い性質を持つ化合物です。その幅広い存在と生理活性から、食品、香粧品、あるいは機能性食品や医薬品の研究対象として、今後もさらに研究が進められることが期待されます。

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