カリオフェリン

カリオフェリンは、真核生物の細胞が生存するために不可欠なタンパク質群であり、細胞質と細胞核の間で行われる様々な生体分子の精密な輸送を担っています。細胞核の内部、すなわち核質（カリオプラズムとも呼ばれます）と細胞質の間では、遺伝情報の維持や発現、そして細胞機能の調節に関わる多くの物質が行き来しています。この重要な分子の交通システムを実質的に管理しているのがカリオフェリンです。

この分子輸送は、細胞核を包む核膜に多数開いている核膜孔と呼ばれる構造を通過して行われます。核膜孔は非常に複雑なタンパク質複合体（核膜孔複合体）で構成されており、特定の分子のみを選択的に通過させるゲートウェイとして機能します。多くのタンパク質やRNA分子などが核膜孔を通過する際には、カリオフェリンの仲介が必須となります。

カリオフェリンは、その機能によって主に二つのタイプに分類されます。一つは「インポーチン」と呼ばれるもので、細胞質で合成されたタンパク質などを核内へ輸送する役割を担います。もう一つは「エクスポーチン」と呼ばれ、核内で合成されたRNA分子や特定のタンパク質などを細胞質へ運び出す役割を果たします。このように、カリオフェリンは物質の「積み荷」（カーゴ）と結合し、核膜孔を越える移動を支援します。

このカリオフェリンによる輸送の駆動力となっているのは、Ranと呼ばれる小さなGTP結合タンパク質の細胞内における不均一な分布、すなわち濃度勾配です。RanはGTP結合型とGDP結合型の間で変換され、細胞質では主にGDP結合型が多く、核内では主にGTP結合型が多く存在します。このRanのGTP-GDPサイクルが、カーゴ分子のカリオフェリンへの結合と解離を制御し、輸送方向の指向性を与えています。

特に、インポーチンβは、カーゴタンパク質を核内へ効率的に輸送するための主要なカリオフェリンの一つです。インポーチンβは、細胞質において単独で、あるいはインポーチンαと呼ばれる別のアダプタータンパク質を介して、輸送されるべきカーゴ分子と結合します。カーゴを乗せたインポーチンβは核膜孔を通過して核内へと移動します。核内に入ると、豊富に存在するRan-GTPがインポーチンβに結合し、これによりインポーチンβはカーゴ分子から解離します。解離したカーゴ分子は核内でそれぞれの機能を発揮し、Ran-GTPと結合したインポーチンβは核膜孔を通って細胞質へと戻り、輸送サイクルが完結します。インポーチンβは、インポーチンαのようなアダプターなしでも直接カーゴと結合して輸送を行う能力も持っています。

また、細胞が様々なストレスに晒された際には、特定のカリオフェリンがその輸送機能を一時的に停止することが知られています。これらのカリオフェリンは、細胞質に形成される特殊な構造体であるストレス顆粒の中に一時的に退避し、ストレス状況が改善されるまで待機します。これは、細胞がストレス環境下でエネルギー消費を抑えつつ、重要な分子を保護するための応答機構の一部と考えられています。

このように、カリオフェリンは真核細胞における分子の核-細胞質間輸送の要であり、細胞の恒常性維持や遺伝子発現の調節、さらにはストレス応答など、多岐にわたる生命現象において極めて重要な役割を担っています。その機能不全は、様々な疾患の原因となることも示唆されており、活発な研究が進められています。

もう一度検索