カリュドンのイノシシ狩り

ピーテル・パウル・ルーベンスの「カリュドンのイノシシ狩り」

この絵画は、バロック期の巨匠ピーテル・パウル・ルーベンスが1617年から1628年頃に制作した油彩作品です。ルーベンス自身が主要な人物を描き、風景はヤン・ウィルデンス、動物はフランス・スナイデルスが担当しました。さらに、アンソニー・ヴァン・ダイクが画面の拡大を手がけたという、複数の巨匠による共同制作作品です。現在は、ウィーンの美術史美術館に所蔵されています。

作品の主題

作品の主題は、ギリシア神話の「カリュドンのイノシシ狩り」の逸話に基づいています。物語は、カリュドンの王オイネウスが収穫祭で狩猟の女神アルテミスへの捧げ物を怠ったことから始まります。怒ったアルテミスは、罰としてカリュドンに巨大で獰猛なイノシシを送り込みました。このイノシシは田畑を荒らし、人々を苦しめたため、ギリシア各地から英雄たちが集結します。英雄には、テセウス、イアソン、そして女狩人のアタランテなどが含まれ、王の息子メレアグロスと共にイノシシ狩りを行うことになりました。狩りの成功の褒美は、イノシシの頭と毛皮と定められました。

描かれている場面

絵画は、鬱蒼とした森の中で、英雄たちが牙を剥き出しにしたイノシシに立ち向かう場面を描いています。イノシシは、暴れ回り、英雄の一人を踏みつけています。画面手前には、イノシシに蹴散らされた狩人と猟犬が描かれています。左側では、アタランテが放った矢がイノシシの首筋に突き刺さる瞬間が捉えられています。メレアグロスは槍を構え、今にもイノシシに止めを刺そうとしています。構図は、木々で囲まれた混沌とした狩りの状況を描き出しつつ、鑑賞者の視線はまず、白い肌を光で照らされたアタランテに引きつけられます。そして、彼女の隣で槍を構えるメレアグロス、そして彼と対峙するイノシシへと視線が移動していくように構成されています。

補足

ルーベンスは、この「カリュドンのイノシシ狩り」を複数描いており、マドリードのプラド美術館には、同主題の風景画である『カリュドンのイノシシを狩るアタランテとメレアグロス』が所蔵されています。

この作品の魅力

ルーベンスの描く「カリュドンのイノシシ狩り」は、神話の物語を生き生きと蘇らせる力強さがあります。英雄たちの勇ましさ、イノシシの獰猛さ、そして森の自然が一体となって、鑑賞者を物語の世界へと引き込みます。バロック絵画の特徴である、動きのある構図や光と影のコントラストが、作品の迫力をさらに高めています。

参考文献

吉田敦彦『名画で読み解く「ギリシア神話」』世界文化社、2013年

外部リンク

[美術史美術館]]公式サイト、ピーテル・パウル・ルーベンス『カリュドンのイノシシ狩り』 ([英語)

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