カレーの市民

カレーの市民

オーギュスト・ロダンが制作した彫刻『カレーの市民』は、1888年に完成した作品であり、フランスの歴史的な出来事である1347年のカレー包囲戦をテーマにしています。この作品は、戦争の影響や英雄的な自己犠牲の象徴として評価され、多くの人々を感動させています。

カレー包囲戦の背景

1346年、イングランド王エドワード3世がフランスのカレーを包囲しました。この包囲戦は、イギリスとフランスの間で繰り広げられた百年戦争において非常に重要な出来事でした。カレーは、イギリスにとって戦略的な港であり、エドワード3世はこの町を制圧することを目指しました。一方、フランスの王フィリップ6世は、市民に持ちこたえるよう指示を出しましたが、最終的に町は飢餓状態に陥り、降伏を余儀なくされました。

条件として、エドワード王は、町の主要な6人の市民に自ら出頭するよう要求し、彼らの命と引き換えに市民を救うことを約束しました。エドワードは、彼らに条件として「裸に近い格好で首に縄を巻き、城門の鍵を持って行くこと」を求めました。この6人は、ウスタシュ・ド・サン・ピエールを先頭に、ほとんど何も着ていない姿で歩き出しました。彼らは、勝利の反映であると同時に、絶望の中での英雄的な姿として、大きな意味を持った存在となりました。

ロダンの作品の創造

ロダンは、これらの市民が直面した運命を具現化するために、彫刻を制作しました。彼は、敗北の象徴でありながら、同時に自己犠牲の精神を表現したいという強い思いがありました。彫刻は集団を形成し、個々の人物が持つ感情や困難さを力強く示しています。ロダンは、鑑賞者と彫刻が同じ高さにあることを望み、それにより彫刻と鑑賞者との距離を縮め、より密接な関係を築くことを意識しました。

『カレーの市民』は当初、カレー市に設置されることが提案されましたが、その姿は一般的な戦勝記念のモニュメントとは異なるものでした。ロダンが表現したのは、疲れ切った姿であり、戦勝の栄光ではなく、悲しみや苦しみを伴った自己犠牲であったため、当時は賛否が分かれました。1880年に設置が提案された際には、既にロダンの意図が理解されていなかったのです。

展示と影響

ロダンは自らの意図に反し、設置の際には彫刻が台座の上に据えられることになりました。彼の作品は、直接地面に置かれることで新たなアプローチを試みたのですが、実際には1924年まで台座の上に設置されたままでした。現在、世界中のさまざまな場所に『カレーの市民』のエディションが存在し、それぞれ異なる展示方法が取られています。

オリジナルから12体の版が鋳造され、各地の美術館や公共の場に設置されました。そのため、『カレーの市民』は国際的な文化遺産となり、多くの人々に親しまれています。エディションは長い間にわたり展開され、アメリカやアジアなど様々な地に所蔵されています。

特に日本では、1953年に国立西洋美術館に設置されたエディションがあり、日本の文化人にとっても重要な作品となっています。ロダンの意図も反映されたこの展示方法は、観覧者が作品の間を歩き回り、さまざまな角度から見ることができるように工夫されています。

最後に

『カレーの市民』は、歴史的な事件を基にした彫刻であり、無私の英雄的行動を称えつつもその裏にある苦難を描写しています。この作品はなぜ今でも多くの人々に感動を呼び続けるのか、その背景にある深い物語と、ロダン自身の芸術的表現力によるものです。

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